BTSはなぜこんなにも愛されるのか?~メンバー全員「GIVER」説~

 

【はじめに】

 

30代最後の年、ものの見事に、韓国のグループ・BTSにハマった。

最初は彼らの美しいビジュアルに、そして目を見張るほど素晴らしいパフォーマンスに魅了され、次第にその考え方、生き方に感銘を受けるようになり、今や「好き」を超えて、「リスペクト」。

自分よりひと回りも年下の、しかも異国の男の子たちに、こんなにも夢中になるなんて想像もしていなかった。

 

飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのこと。K-POPアーティスト、そしてアイドルとして、敵なしの人気を誇り、全世界でファンが熱狂する唯一無二のグループ、BTS。

どうしてこんなにも、私は、そして世界は彼らを愛してしまうのだろう。ハマっていくほどに、単純に、そんな疑問を抱くようになった。彼ら以外にも、歌って踊れるかっこいいグループはたくさんいる。それなのに、なぜ、そのなかから我々はBTSに惹かれるのだろうか。

 

メンバーのJIMINは、とある映像のなかでこんなことを話していた。

 

「なぜ、多くの人が僕たちを愛してくれるのか。一生懸命な姿がいいと言ってくれるけれど、一生懸命やっている人は他にもいる。なのに、どうして僕たちを愛してくれるのだろう。自分でもわからない」と。

 

アーティスト本人も首をかしげる、爆発的な人気の秘密。

 

『ニューズウィーク日本版』2020年12月1日号の特集「BTSが変えた世界」には、その理由について、次のように書かれている。

 

・SNSなどを通じてファンの反応を逐一チェックし、マーケティングに活かしていること

 

・SNSなどを通じて、アーティストがファンとダイレクトにつながれる仕組みを作り、それがファンとの絆を生んでいること

 

・偉大な業績は個人ではなく、チームとファンのもの。特定のメンバーが突出して目立ったり、手柄を独り占めするような環境にないこと

 

・メンバー自信が楽曲制作に濃密に関わっていて、「歌わされている」「踊らされている」見え方になっていないこと

 

・メンバー、そして製作陣の社会的意識が強く、「自分を愛することの大切さ」を伝え続けていること

 

なるほど、なるほど。どれも「確かに」とうなずける。これを読んで、私はすっかり納得した気になっていた。

 

しかしそんな私が、さらに深く、彼らの人気の理由を考えさせられるきっかけが訪れた。

それは、この本との出合いだ。

 

GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(アダム・グラント著/2014年)

 

最近、私は「人生100年時代をどう生きるか」というテーマに興味を持ち、関連する本をいろいろと読んでいるのだが、これはその中の1冊だ。

組織心理学者であり、大学教授である筆者が、人間の思考と行動のパターンを次の3種に分類し、これからの働き方や生き方について、方向性を指し示している。

 

・GIVER(ギバー)=人に惜しみなく与える人

 

・TAKER(テイカー)=真っ先に自分の利益を優先させる人

 

・MATCHER(マッチャー)=損得のバランスを考える人

 

400ページ近い、濃い本の内容からざっと抜粋すると、それぞれの考え方・行動や、そこから導かれる理論は、こうだ。

 

TAKERやMATCHERが他人に「ギブ」するのは、相手からの「テイク(見返り)」が目的である…「テイク&テイクン」

 

GIVERは、相手のことを考え、真っ先に相手に与える。その時点では目的として「テイク」があるわけではない…「ギブ&ギブン」

 

GIVERには、行動の結果として「ギブ」が返ってくる。だから、長い目で見ると、TAKERやMATCHERよりもGIVERが成功する。それを証明するように、世界で大きな成功を収めている人の多くは、GIVERとしての特徴を持っている。

 

とのことだ。

 

 

この本に書かれているさまざまなGIVERの特徴を見ていくうちに、「これは、BTSというグループ全体、そしてメンバーそれぞれに当てはまるのでは?」という想いを抱かずにはいられなかった。

そして、「BTSがなぜこんなにも愛されるのか?」、その疑問を解き明かす一つの鍵が、彼らの持つGIVERとしての特性なのではないかと考えたのである。

 

そこで、ふと頭に浮かんだ、BTSメンバー全員「GIVER」説を、彼らの過去のインタビューや動画などで見聞きしたことを参考に、考察・検討してみようと思い至った。

 

とは言え、私自身、彼らを好きになってまだ半年ほど。だから、知識や触れてきた情報に不足があることをご了承いただきたい。

また、あくまでこれは、私が『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』を読んで、勝手に感じたことをもとに、勝手に論じることである。

 

パフォーマンスの素晴らしさやビジュアルのステキさ、楽曲やMVといったコンテンツのクオリティの高さなど、BTSの魅力は多岐にわたるが、ここでは彼らの「GIVER」という特性にだけ焦点を当てたい。

 

書く前からとんでもなく長い文章になることが予想されるが、早速、始めてみよう。どうぞ最後まで、根気強くお付き合い願いたい。

 

 

<CONTENTS>

 

はじめに

 

Part1/GIVERの持つ、思考・行動の特徴とは?

 

Part2/グループとしての「GIVER的振る舞い」

 

Part3/メンバーそれぞれの「GIVER的振る舞い」

 

Part4/BTSを支える事務所の「GIVER的振る舞い」

 

Part5/BTSに「与えられた」ARMYの「恩送り」

 

おわりに

 


 

【Part1/GIVERの持つ、思考・行動の特徴とは?】

 

 

まずは、『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』に記されている「GIVER」の特徴を、いくつかピックアップしてみよう。

これを読んでいるあなたがBTSのファンであれば、詳しく説明せずとも、おそらく「あら、ほんと。これは彼らに当てはまっているな」と感じる部分が多いのではないだろうか。

 

一つだけ、あらかじめ説明しておきたい。それは、GIVERのなかにも、「成功するGIVER」と「自己犠牲的なGIVER」がいるという点だ。

 

「成功するGIVER」は、他人に与えることで、結果として大きな成果やチャンスや富を生む。

 

「自己犠牲的なGIVER」は、他人に与えようとする特性を良いように使われてしまい、結果として、自分をすり減らすだけの生き方しかできない。

 

BTSのメンバーは言わずもがな、前者の「成功するGIVER」だ。それを踏まえて、読み進めてほしい。

 

また、この本には、世の中に、GIVER、TAKER、MATCHERがどのくらいの割合で存在するのかについて、正確な数字は書かれていない。ただ、「ほとんどの人がMATCHER」だと記されている。

 

とある眼鏡チェーンの販売員に対して行ったアンケートでは、MATCHERは約4割、GIVERとTAKERはそれぞれ3割という結果が出たとのこと。しかし、その3割のGIVERのなかで「成功するGIVER」はごく少数だというニュアンスのことが書かれている。ここから、私は「成功するGIVER」は、全体の1~5%程度なのではないかと推測している。

 

<GIVERの主な特徴> 

※『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』より、抜粋・一部編集して紹介しています。

 

●「自己犠牲」ではなく、「他者志向性」を持つ。他者志向性とは、例えばチームで仕事をするときに、自分の取り分を心配するのではなく、みんなの幸せのために高い成果を出すことに目的を設定する。

 

●「自分にとって意義のあることをする」「自分が楽しめることをする」、この条件を満たした仕事をする。そのため、GIVERは他人だけでなく、自分にも「与える」ことができる。自分が認識する「意義」のもとに、他者と自己が一体化する。

 

●頼り合うことが弱さだとは考えない。それよりも、頼り合うことは強さの源であり、多くの人々のスキルをより大きな利益のために活用する手段だと考える。自分が集団に深く関われば、みんなが得をすることになるのがわかっている。

 

●人に影響を与えるための二つの基本的なアプローチ「優位」「信望」のうち、「信望」を集めることができる。信望は、弱点を隠さず、弱さをさらけ出し、拒絶や障害や躊躇をうまく利用してコミュニケーションをとることにより集めることができる。強引な話し方はせず、不明な点があれば明らかにし、人のアドバイスを喜んで受け入れ、相手に尊敬や賞賛を抱かせる。

 

※「優位」は、力説し、声を張り上げて権利を主張し、実績を強調し、信念とプライドをかけて自分を売り込むことで確立される。両腕を広げ、眉を上げ、威圧的なポーズをとって、必要とあらば怒りや脅しも織り交ぜながら力を誇示する。

 

●成功の定義が、TAKERやMATCHERとは異なる。TAKERが成功を「人を出し抜いて優れた成果を達成すること」だと考えるのに対して、MATCHERは成功を「個人の業績を他人の業績を公平に釣り合わせること」だと考える。

一方、GIVERは成功を「他人にプラスの影響をもたらす個人的なもの」だと考える。すなわち、GIVERにとっての成功=「個人の業績+他人への貢献度」ということ。

 

●GIVERは、人に力を振るうことではなく、人を助けることに関心があるから、弱みをさらけ出すことを恐れない。弱さを見せることで、GIVERは、信望を集めている。ただし、弱みを見せても効果があるのは、周囲の人々に有能だと認められている場合に限る。

 

どうだろうか?

 

私はこれらの特徴を、BTSというグループ全体、そしてメンバーそれぞれが持っていて、それが、今の成功を築く一因になっているのではないかと、推測している。

 


 

【Part2/グループとしての「GIVER的振る舞い」】

 

まず、BTSというグループが、グループ全体として「GIVER」の特性を持っていることを、いくつかの視点から考察していきたいと思う。

 

 

<独自の哲学と力強いメッセージ>

 

彼らにGIVERの特性を感じる最も象徴的な側面は、掲げる哲学と、ファンに対して投げかける強いメッセージである。

先に触れた『ニューズウィーク日本版』2020年12月1日号にも、彼らの人気の理由の一つとして挙げられているが、BTSは「LOVE MYSELF」をキーワードに、一貫して「自分を愛することの大切さ」を伝え続けている。

 

BTSと彼らが所属する芸能事務所・BigHitエンターテインメントは、2017年11月、ユニセフ韓国委員会と、児童・青少年暴力根絶のためのユニセフグローバルキャンペーン「#ENDviolence後援協約」を締結。

「自分への愛が真の愛の始まり」という信念のもと、協同で「LOVE MYSELF キャンペーン」を展開。彼らがワールドツアーを開催するそれぞれの国でユニセフ広報ブースを設け、世界の児童と青少年へ慰めと勇気のメッセージを伝えるなど、さまざまな活動を行っている。

 

2018年には、グループとしてニューヨークの国連本部に招かれ、代表してリーダーのRMがスピーチを行った。

 

※ユニセフの公式サイトに、全文の記載とスピーチ動画あり。

 

RMは、幼い頃の自分のこと、BTSとしてデビューしたものの「売れない」と言われ続けてきた不遇の時代のこと、努力を惜しまずにここまで歩んできた道のり、ファンへの感謝を語り、自分を愛することの大切さを訴えている。

彼自身の率直で真摯な言葉で綴られたこのスピーチは、大きな強さと優しさと、説得力を持っていて、私は見る度心を打たれて泣いてしまう。

 

BTSが「LOVE MYSELF」というメッセージを掲げて歩んでいる背景には、このキャンペーンがある。しかしこれは、キャンペーンありきで打ち出された表面的なメッセージではないのだ。

それは、同キャンペーンにBTSが起用された理由をひも解くとよくわかる。

 

彼らはデビュー当時から、同じ時代を生きる若者たちに向けて、音楽を通して自らの悩みや胸の内をさらけ出し、表現をしてきた。

 

BTSの生みの親であるプロデューサー、パン・シヒョク氏は、デビューをする彼らに、楽曲制作にあたって、「自分のことを書け」と言ったのだという。

作詞家が書く借り物の言葉ではなく、自分たちの言葉で紡がれた飾らない歌詞。それは、時にハッとするほど辛辣で、胸が痛くなるほど赤裸々だ。

 

BTSとは、韓国での活動グループ名「防弾少年団」の「Bangtan Sonyeondan」の略称であるが、「防弾少年団」には、「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」という意味が込められており、彼らはその名の通り、楽曲を通してそれを体現し続けてきた。

 

そんな彼らを、若者たちは次第に「自分の代弁者」であるように感じ、ファンになっていった。

彼らの発する言葉は、リアルで説得力があり、人の心を惹きつける力がある。だからこそ、若者をターゲットとしたこのキャンペーンに抜擢されたのである。

 

音楽を通して「LOVE MYSELF=自分を愛そう」と訴えかけるこのキャンペーンは、多くの共感を呼び、「LOVE MYSELF」という言葉は、いつしか彼らの代名詞のようになっていった。

 

さまざまな楽曲で、「自分を愛すること」の大切さが歌われているのだが、『Answer:Love Myself』はそのなかでも代表的な1曲。

 

もしかしたら他の誰かを愛することよりも難しいのは 自分を愛することなのかもしれない

僕は自分自身を愛さなくちゃ 僕の呼吸、僕の歩んできた道 

僕は自分の愛し方を学んでいるところだ

 

 

この曲を通して、彼らは、聴く人に「自分を愛するきっかけ」を与えようとしている。

リーダー・RMは、先に紹介した国連でのスピーチはもちろん、コンサートでも折に触れ、率先して「LOVE MYSELF」というメッセージをファンに訴えかけている。

 

とあるコンサートの動画に、RMがこんなことを話しているシーンを見つけた。

 

「どうか、みなさん、自分自身を愛するために、僕たちを利用してください」

 

「僕たちのひと言、たった一行の歌詞が、皆さんが自分自身を愛せる助けになれればと思います」

 

「僕たちBTSは7人ではなく、あなた、私、そして私たちみんなについての物語です」

 

まさにこれは、彼らが、自分の存在や行いを通して他人にプラスの効果をもたらそうとする、「GIVER」であることを象徴する言葉だと思う。

 

 

<当たり前のこととして行われる寄付>

 

次に触れたいのは、彼らの寄付の機会とその金額の多さである。寄付とは、言わずもがな「与える」行為で、「GIVER」の特性をわかりやすく体現するものだ。

BTSが、これまでグループあるいは個人で、また事務所とともに寄付をした主なものを挙げてみよう。

 

・旅客船セウォル号沈没事故の遺族へ、1億ウォン(約980万円)を寄付。

 

・黒人差別に反対する抗議運動「Black Lives Matter」支援のために、事務所とともに100万ドル(約1億1000万円)を寄付。

 

・ライブ企画会社Live Nationが行う、COVID-19の影響を受けた公演スタッフのための寄付キャンペーン「Crew Nation」に100万ドルを寄付。

 

・メンバーのJ-HOPEが、児童支援団体「ChildFund Korea」のクァンジュ広域市本部を通し、1億ウォン(約980万円)を寄付。

 

・メンバーのJ-HOPEが、経済的に困難な状況にある児童(社会的弱者層児童)を助けるため、1億ウォン(約980万円)を寄付。

 

・メンバーのSUGAが、故郷・大邱(テグ)へ新型コロナウィルズの対策費として1億ウォン(約9,000万円)を寄付。

 

・メンバーのSUGAが、『韓国小児ガン財団』に1億ウォン(約980万円)と自身がデザインしたBT21のキャラクター『SHOOKY』のぬいぐるみを329個寄付。

 

・メンバーのRMが、国立現代美術館に1億ウォン(約980万円)を寄付。

 

・メンバーのJIMINが、全南未来教育財団に奨学基金1億ウォン(約980万円)を寄付。

 

メンバーのJINは、ユニセフ韓国委員会に1000万円以上を寄付した後援者たちの集まり「UNICEF HONORS CLUB」の会員であるらしい。

 

少し調べただけでも、彼らが行った寄付の情報が次々に出てくる。ここに挙げたのは、彼らの寄付行動のほんの一部に過ぎない。

 

こちらの記事によると、彼らが寄付を通して社会貢献活動をするきっかけとなったのは、デビュー間もない2014年に出演したとある番組なのだとか。

 

『なぜBTSは寄付や啓蒙活動に注力するのか?原体験は「ホームレスの言葉」』

 

番組の中でメンバーたちは、米国黒人のHIPHOPアーティストであるチューターと共に、LAのスラム街スキッド・ロウに出向き、ライブの運営資金獲得という目的で稼いだアルバイト代で食料を購入し、ホームレスたちに配っている。

 

そこでホームレスたちから、こんな言葉をかけられる。

「他の人になろうとせず、自分を見失わないように自信を持って生きることだ」

 

「落ちるのはあっという間で、誰にでも起こりうることだ。だからこそ、自分たちがどこから来たのか。そのルーツを忘れてはいけない」

 

10代~20代前半の多感な時期にあった彼らにとって、これは非常に衝撃的な出来事で、これが彼らに社会貢献という概念を抱かせるきっかけになったのではないかと、記事にはある。

 

スーパースターにのし上がり、大金を手にしたとき、果たして私は彼らと同じことができるだろうか? 考えてみたけれど、正直、わからない。

その手の中にある富を、すべて、自分や家族のために使ってしまうことだってできるのだ。自分で稼いだお金なのだから、いわゆるセレブ的な贅沢三昧の暮らしだけに使ったとしても、誰も文句を言わないだろう。

しかし、彼らは惜しみなく、弱者のために寄付をする。その選択ができることが「GIVER」である証だし、リスペクトに値する点である。

 

私は、彼らの楽曲『Airplane pt.2』の、SUGAのパートのこの一節が、大好きだ。

 

セレブ遊びならやってな 

俺たちは何も変わってない 

 

なんてかっこいいんだろう。

 

心ない人のなかには、寄付なんてイメージアップのための売名行為だという人がいるかもしれない。

しかし、彼らは一部で「寄付したことは明かさないでほしい」と告げた上で、寄付をしていることも報道されている(誰かが口を滑らせて、バレてしまっているのが残念なのだけれど……)。

 

世間が見ているからとか、良い人に思われたいからとか、彼らの寄付行為の裏側に、そういう浅はかな動機はないのである。

 

 

<惜しみなく見せる、オフの姿>

 

もう1点、グループの「GIVER的振る舞い」の一つとして触れておきたいのは、彼らがファンに見せるプライベートについてである。

彼らは、SNSやバラエティ番組への出演、ドキュメンタリー映像などを通して、ステージ上とは異なる素の姿を、惜しみなく披露している。

寝姿や寝起きの姿、食事中、楽屋での様子など、普段の彼らが見られるのはファンとしてはうれしい限りだが、一方で、こんなにもカメラに素の姿を晒されて嫌じゃないのかなと思ってしまうほど。

 

ステージ上ではとにかくかっこよく、クオリティの高いパフォーマンスを見せている彼らだが、一歩ステージを降りると、20代の若者らしいかわいらしい一面があり、ほっこりさせられる。

IQ148の頭脳を持つリーダーのRMが、まったく料理ができない不器用さを見せたり、2017年の「世界で最もハンサムな顔100人」で第1位に選ばれたメンバーのVが、凡人には理解できない天然ぶりを発揮したり。

 

とことんドジな部分、おもしろい部分、人間味のある部分に、見ている側はいつの間にか魅力を感じ、さらにファンになってしまう。

 

『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』のなかで、「プラットフォール効果」というものが紹介されている。彼らのプライベートの公開は、この「プラットフォール効果」を存分に発揮していると思うのだ。

 

「プラットフォール効果」とは、失敗する姿を見せることで、近寄りがたさがなくなり、人間らしく親しみやすい印象を与えるというもの。平均的な人物よりも、達人がそのような姿を見せることにより、その効果はさらに高まるのだとか。

 

いわゆる「ギャップ萌え」に近いものかもしれない。優れたパフォーマンスで人を惹きつける彼らだからこそ、それとはかけ離れた面を見ると、人々はより一層の親しみを感じるのである。

 

この「プラットフォール効果」は、GIVERの特徴である、人々からの「信望」にも大きく寄与している。信望とは、人に影響を与えるための二つの基本的なアプローチのうちの一つ。

信望を集めるには、弱点を隠さず、弱さをさらけ出し、拒絶や障害や躊躇をうまく利用してコミュニケーションをとること。また、強引な話し方はせず、不明な点があれば明らかにし、人のアドバイスを喜んで受け入れることが必要だ。

 

「弱点を隠さず、弱さをさらけ出し、拒絶や障害や躊躇をうまく利用してコミュニケーションをとる」。これを、彼らはプライベートな姿を見せることで実現している。

 

さらに言うと、強引な話し方をするメンバーは誰一人としていないし、常にメンバー間で話し合い、不明な点があれば明らかにして、前に進む姿をファンは見ている。

また、メンバー同士、ダンスを教え合ったり、楽曲制作に際して他のメンバーに助言を求めたりと、メンバーの誰もが周囲のアドバイスを喜んで受け入れる姿も、ファンは知っている。

 

同著には、「信望のある人は、相手に尊敬や賞賛を抱かせる」と書かれている。

なるほど。私が彼らに尊敬と称賛の想いを抱いているのは、彼らが信望のあるGIVERだからなのか。大納得だ。

 

 

<いつ何時も口に出す「ARMYのおかげ」>

 

彼らの言動に注目すると、あらゆる場面で、どのメンバーからも「ARMYのおかげ」という言葉が聞こえてくる。

 

※ARMYとは、彼らのファンの名称で、Adorable Representative M.C.for Youth(若者を代表する魅力的な進行役)の頭文字からなる

 

何らかの賞を獲ったときも、新たな楽曲をリリースしたときも、前人未到の記録を打ち立てたときも、大規模なコンサートを開催したときも、そして、番組の企画でメンバー同士で旅に出かけたときでさえ、彼らは「ARMYのおかげ」と言う。

ちょっとくらい、「自分たちの努力の賜物だ」とか「自分たちの優れたパフォーマンスの成果だ」とか、言ったっていいじゃない?と思うくらい、ひたすら謙虚に「ARMYのおかげ」と言い続けるのである。

 

TAKERにとって、「成功」は「人を出し抜いて優れた成果を達成すること」

だから、TAKERが考える「ファン」は、「優れた自分たちに羨望の眼差しを向ける人々」なのかもしれない。

けれど、GIVERの彼らにとっての「成功」は、「他人にプラスの影響をもたらす個人的なもの」

だから、彼らが考える「ファン」は、「自分たちにモチベーションを与え、成果につなげてくれる人々」なのだろう。

 

そういう概念でファンのことをとらえているからこそ、自然と、何の迷いもなく、心から「ARMYのおかげ」と言えるのだと思う。

 

「ARMYのおかげ」と感謝されたら、応援しているだけなのに、なんだか彼らの役に立てているような気持ちになれる。大好きな彼らの役に立てるなんて、これほどファン冥利につきることはない。だから、より一層応援したくなる。

 

また、彼らは常にBTSのメンバーだけではなく、ファンをも含んだ意味で「僕たち」という言葉を使ってくれる。だから、ファンはまるで自分もメンバーの一員であるかのように感じることができる。そして、ファンの心には、自分自身も含んだこのグループのために何かプラスの行動を起こそうという意欲が沸きあがるのだ。

 

ARMYたちが自発的に行動を起こし、BTSの活動とは関係なく、独自に募金活動や、社会運動などに取り組んでいるのは、有名な話だ。

ARMYはもはや、BTSを応援するだけの存在ではなく、BTSとともに行動をする存在として、その立場を確立している。これは本当にすごいことだ。

 

BTSというグループは、ファンにとって、癒やしや喜びを与えてくれる存在を飛び越え、ファンに「自ら行動を起こす」という、強いアイデンティティさえ生ませる存在なのである。

 

これは、先に紹介した「LOVE MYSELF」というメッセージとも大いに関連している。彼らと出会い、「自分を愛そう」と思えた人たちが、その自己愛を表現する形で、社会的に意義のある活動に参加している。

彼らのファンへの影響力たるや、すさまじい。

 

このことについては、Part5の【BTSに「与えられた」ARMYの「恩送り」】で詳しく語りたい。

 


 

【Part3/メンバーそれぞれの「GIVER的振る舞い」】

 

次に、個々のメンバーについて、その「GIVER的振る舞い」を考えてみたい。

 

 

<7人でなくちゃ、意味がない>

 

BTSは、1992年生まれのJIN、93年生まれのSUGA、94年生まれのRMとJ-HOPE、そして95年生まれのJIMINとV、97年生まれのJUNG KOOKの7人のメンバーで構成されている。

 

ARMYは彼らを、「奇跡の7人」だと語る。

 

育った環境も、性格も、好きな音楽も、得意不得意も異なるけれど、メンバーは皆「この7人だからこそ、ここまで来られた」「運命の出会いだ」と、ほかのメンバーの存在のありがたさについて言及している。

互いの存在に感謝し、リスペクトし合い、助け合い、励まし合い、共に歩むグループが放つ、優しさや強さに満ちたきらめき。そして尊さ。そこに惹かれるファンは、数多い。

 

私もその一人だ。あるメンバーが他のメンバーを誉めている様子や、どれだけメンバーが大切な存在かを語っている姿を見ると、自然と涙がこぼれてしまう。

 

例えば、こんな発言とか。

 

JUNG KOOK

「メンバーのみんなとは、一緒にいる時間が長いから、話さなくてもお互いにわかり合える。目に見えない絆みたいなものがあると感じている。

僕はすごく幼い頃に上京したので、親友がいなかった。誰よりも長い時間、一緒にいる人はメンバーだから、言葉にできない感情を感じる。メンバーは友情という言葉の意味を教えてくれた。本当の家族ではないけれど、家族だと思える人たちだ」

 

V

「山に登るとき、一人で登る人もいるだろうけど、誰かと一緒に登る人もいる。頂上に着くまで、話し合ったり、思い出を作ったり、交流したり。良くないことがあっても、頂上に着くために、一緒に全部乗り越えよう、そういう気持ちでみんなが集まっていると思う。

名誉とか、そういうものにこだわらない。僕たちBTSの7人は、そういうグループだと思う」

 

SUGA

「フォーカスはいつもチームに合わせて考えている。チームがうまくいってこそ一人一人がうまくいくことだと、みんなが本当に良く知っているので、お互い言葉にしなくても分かり合える。

たとえ、僕が自分で好きな人を選んでチームを結成したとしても、今のメンバーには敵わないと思う。僕が一人で何かをするより、7人みんなでする方が、はるかにたくさんのシナジー効果を上げられる。こんなに相性の良い人たちがいるだろうか、運命なんだなと、よく感じる」

 

J-HOPE

「こういう7人がどうやって集まれたんだろうと思う。ただ長い間一緒にいたからこうなれるとは思わない。ある意味、運命だなと。すごく幼稚な言い方かもしれないけれど、これは運命なんだって」

 

キーボードでこれらの言葉を打っているだけで泣きそうになってしまう。愛しかない言葉たち。他にもたくさんあるのだけれど、挙げればキリがないので、このくらいにしておこう。

 

発言のなかで、特に注目すべきは、SUGAの「チームがうまくいってこそ一人一人がうまくいくことだと、みんなが本当に良く知っている」という部分だ。

 

「自己犠牲」ではなく「他者志向性」を持っていて、チームで仕事をするときに自分の取り分を心配するのではなく、みんなの幸せのために高い成果を出すことに目的を設定する。

 

こんなGIVERの特性をメンバー全員が持っていることを、SUGAの言葉は示している。

 

『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』には、次のようなことが書かれている。

 

ほかの誰かとアイデンティティを共有すると、その相手に親切にすることは、他者志向的な性質を帯びる。自分のグループに属する人を助ければ、グループ全体がより良い状態になるので、結果的に自分自身も助けることになる。

 

彼らが共有しているアイデンティティとは、言うまでもなく、BTS。「自分はBTSの一員である」「7人全員でBTSである」その事実が、彼らにアイデンティティを共有させ、「ALL FOR ONE,ONE FOR ALL」的なGIVERの精神を育んで、強固なものにしているのだと思う。

 

さらに、同著には、次のような興味深い研究結果が書かれている。

 

高い技術を持ち、多くの手術を成功させた外科医が、手術中の死亡率を下げたのは、なじみの看護師や麻酔医などがいるチームで仕事をしたときだった。外科医が特定の看護師や麻酔医の長所や弱点、クセや流儀をわかるようになったことが、患者の死を防ぐことにつながった。

 

また、『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/2016年)では、次のような研究結果が紹介されている。

 

ウォール街の投資銀行で働く1000人以上の花形アナリストについて、その人がほかの銀行に移籍した後の成果を調査したところ、移籍後は成果が下がった。その理由は、人が持つ知識やスキルを成果につなげるには、所属する組織特有の要素の影響を強く受けるからだ。

 

投資銀行のアナリストの成績は、同僚のネットワークに大きく後押しされていることも、研究から明らかになった。

チームのメンバーが信頼し合い、互いの評価を大切にしているとき、成果は最も上がる。移籍したアナリストが成果を維持したり、上昇させたのは、ほぼ例外なく、チームのメンバーと一緒に移籍したケースだった。

 

ここから言えるのは、どんなに優秀な人であっても、どんな人と仕事をするか、一緒に仕事をする人との関係性がどうなのかによって、成果に大きな差が生まれるということ。

その人にとってベストな人間関係のなかで仕事ができれば、その成果は驚くほどに向上する。それぞれが最大限力を発揮できる関係性が、BTSのなかには間違いなく存在している。

 

 

<ヒョンラインに学ぶマンネライン>

 

BTSのメンバーは、JIN、SUGA、RM、J-HOPEの年長組が「ヒョンライン」、JIMIN、V、JUNG KOOKの年少組が「マンネライン」と呼ばれ、しばしば、お兄さんチーム・弟チームとして区別されることがある。

 

※「ヒョン」とは、韓国で親しい年上の男性を呼ぶときに付ける呼称(日本で言うと「兄貴」「兄さん」という意味合い。年上の女性は「オンニ」を付けて呼ぶ)。

「マンネ」は、末っ子の意味。最年少のJUNG KOOKは、歌もダンスも容姿も完ぺきで多くの曲でセンターを務めていることから、「黄金マンネ」とも呼ばれている。

 

韓国は儒教思想が根強い国で、年功序列が重視され、たとえ1歳しか違わなくても、年上は敬うのが当たり前。親しい関係であっても、年下が年上に敬語を使うのは必須という文化がある。

(とある韓国映画で、子どもが父親に敬語で話している様子を見て、とても驚いた)

 

そんな文化的な背景も手伝い、BTS内でも自然と、ヒョンラインはマンネラインのお手本となろうとし、マンネラインはヒョンラインから学ぼうとする、そんな関係性が築かれてきた。

 

彼らは、デビューまでの数年間、そしてデビュー後も同じ屋根の下で暮らし、同じ釜の飯を食って、共に生活してきた間柄。

辛いこともうれしいことも、何でも一緒に経験し、メンバー自らその関係性を「家族」と語るほど、絆は強固なものである。

 

私は、そんな濃密な日々のなかで、マンネラインはヒョンラインに、もともと持っていたGIVERとしての特性を、上手に引き出してもらったのではないかと考えている。

 

とある動画で、Vのこんな発言を耳にした。

「昔は、自分さえ良ければいいと思っていたけれど、今はみんなが幸せなことがうれしい」と。

 

また、過去に、JIMINはVとJUNG KOOKから、こんなことを言われたのだという。

「その怒りっぽい性格、どうにかならない?」と。

現在の温厚でにこやかなJIMINからは考えられない苦情である。BTSのメンバーとして活動するなかで、彼の性格は少しずつ変化したようだ。

 

中学生で親元を離れて、メンバーと暮らし始めた黄金マンネ・JUNG KOOKは、「ヒョンたちに育ててもらった」と話している。

そんな彼は、「家族やメンバーやARMYのことを考えると、つい泣いてしまう」ほど、心の優しい青年に成長。あんなにも歌もダンスも上手いのに「自分には足りない部分ばかりだ」と謙虚に語る様は、まさに、奢らず地道に努力するGIVERそのものだ。

 

マンネラインのメンバーが、もとからGIVERとしての素質を持っていなければ意味がないのだが、それが花開き、自ら積極的にGIVER的な振る舞いをするようになるには、きっかけが必要だったはず。

積極的にマンネラインの手本になろうとし、ファンに対して、またグループに対してどう振る舞えばいいのかを示したヒョンラインのメンバーたちが、そのきっかけを与えたのではないかと思う。

 

まぁ、いくら歳上とは言え、最年長のJINと最年少のJUNG KOOKの年齢差は、たった5歳。94年生まれのRM、J-HOPEと、95年生まれのJIMIN、Vに至っては1歳しか違わないのだけれど、それにもかかわらず、マンネラインを上手に引っ張って、GIVERの特性を引き出したヒョンラインの大人っぷりと言ったらない。

 

個人的に、ヒョンラインのメンバーの人間性の素晴らしさは目を見張るものだと思っており、それについては、後述したい。

 

ちなみに、BTSには「ヒョンライン」や「マンネライン」以外にも、オフィシャル、アンオフィシャルに、いろいろなグループ分けがある。

 

ラップを担当するRM、SUGA、J-HOPEの「ラップライン」と、ボーカルを担当するJIN、JIMIN、V、JUNG KOOKの「ボーカルライン」。

ダンスが上手いJ-HOPE、JIMIN、JUNG KOOKの「ダンスライン」。ビジュアルが美しいJIN、V、JUNG KOOKの「ビジュアルライン」。全員名字がキムであるJIN、RM、Vの「キム3兄弟(キム家ともいう)」などなど。

 

2人組ならば、95年生まれのJIMIN、Vの「クオズ(95's)」、94年生まれのRM、J-HOPEの「クサズ(94'S)」、ルームメイトだったJINとSUGAの「SIN」、ユニットを組んで楽曲を作ったSUGAとJ-HOPEの「SOPE」などなど。

ファンたちは、「このトリオが好き!」とか、「このカップルしか勝たん!」と、グループ全体を応援しつつ、さらに推しの個別グループも応援するなど、ファン活動を楽しんでいる。

 

私が一番好きな組み合わせは、JIN、J-HOPE、JUNG KOOKの「ジャンジャングク」。外国人のARMYがこの3人組の動画だけをまとめたものをYouTubeにあげていて、思わず「この3人が一番好き!」と日本語でコメントをしてしまった。

そうしたら、「私も!」と日本語で返してくれて、すごくうれしかったのを覚えている。

 

 

<BTSの思想の柱、哲学者RM>

 

先ほど、ヒョンラインがマンネラインのGIVERの特性を上手に引き出したのではないかと書いた。ここでは、それを可能にしたヒョンライン4人のそれぞれの性格や、特徴について見ていきたい。

 

まずは、リーダー・RM。彼のインタビューやステージ上での発言、綴る歌詞を見るにつけ、彼はBTSの「哲学」そのものだなと、しみじみ思う。

彼はその思慮深さ、感受性の高さ、語彙力、クリエイティビティ、発信力、知性によって、BTSに他のアイドルグループにはない品格を与えている。彼は、BTSというグループを一目を置かれる存在に押し上げた中心人物と言っても過言ではない。

 

Part1で紹介した「LOVE MYSELF」のキャンペーンに関連する、国連本部でのスピーチ一つとっても、それがわかるだろう。

あのスピーチは、ただ英語力があるというだけでは、成し得ないものだ。

例えば、世界にはどれだけ恵まれていない若者がたくさんいるかについて述べ、自分たちは彼らに寄り添いたいというような、ごくごく抽象的な内容でも、スピーチとしては及第点をもらえたはず。

 

でも、彼はそうしなかった。

自身の出自について語り、アイデンティティを見つけるために苦しんだ幼少時代を語り、音楽に救われた過去を語り、デビューしてもなお、あらゆる人と同じように失敗を繰り返して生きていることを語り。

 

 

あなたの名前は何ですか? 何にワクワクして 何に心が高鳴るのか。あなたのストーリーを聞かせてください。

 

あなたの声を聞きたい。あなたの信念を聞きたい。

 

あなたが誰なのか、どこから来たのか、肌の色やジェンダー意識は関係ありません。ただ、あなたのことを話してください。話すことで、自分の名前と声を見つけてください。

 

と、声を上げ、自らの想いを表現することの大切さを、そこはかとない情熱を宿しながら語った。

 

ときに

 

僕たちみんなは、名前を失い、幽霊のようになりました。

 

失敗やミスは僕自身であり、人生という星座を形作る最も輝く星たちなのです。

 

など、極上の詩的表現を散りばめながら。

 

このスピーチだけで十分、彼の思慮深さや高いクリエイティビティ、人としての魅力が伝わるだろう。そして、彼が何の疑いもない生粋のGIVERであることに気づくのではないだろうか。

 

※これを読んでいる人にどうしてもぜひ一度見てほしく、しつこいかもしれないが、いつ見ても号泣してしまう動画のURLをもう一度ここに貼り付けておく

 

RMに関して、私は最近思っていることがある。それは、彼はおそらく「リベラルアーツ」に傾倒しているだろうということだ。

リベラルアーツとは、ものすごく簡単な言葉で言うと、一般教養のこと。

 

『おとなの教養 私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』(池上彰著/2014年)には、こう書かれている。

 

リベラルアーツの「リベラル(liberal)」は自由、「アーツ(arts)」は技術、学問、芸術を意味します。だからリベラルアーツの意味は「人を自由にする学問」ということです。

 

数学とか、科学とか、英語とか試験科目があるようないわゆる学問とは違い、世界の成り立ち、宇宙の構造、宗教の意義、人類の進化、経済の仕組み、芸術の歴史など、世の中の流れや世界、人生についてを体系的に捉え、未来を模索したり、心を豊かにするための知識のことである。

こういう教養を身につけておけば、人間はさまざまな偏見から、あるいは束縛から逃れ、自由な発想や思考を展開していくことができると考えられているのだという。

 

同著には、著者がマサチューセッツ工科大学に足を運んだ際のこんなエピソードが書かれている。

 

「マサチューセッツ工科大学に行って印象的だったのは、音楽の授業がとても充実していることです。ピアノがズラリと並んでいて、学生たちが音楽の勉強をしていました。なぜこんなことをやるのだろう。尋ねると、マサチューセッツ工科大学の先生がこう言いました。

 

『マサチューセッツ工科大学は、科学技術の最先端の研究をしています。当然、学生にも最先端のことを教えるのですが、最先端の科学をいくら教えても、世の中に出ていくと、世の中の進歩は速いものだから、だいたい四年で陳腐化してしまう。

 

そうすると、また勉強し直さなければならない。そんな四年で古くなるようなものを大学で教えても仕方ない。そうではなく、社会に出て新しいものが出てきても、それを吸収し、あるいは自ら新しいものを作り出していく、そういうスキルを大学で教えるべきでしょう』

 

それが教養であり、音楽も教養の一つだというわけです。

 

めまぐるしく変わる世の中で、流されず、自分の力で考え、前に進んでいく力。それを養うのがリベラルアーツである。そして今、リベラルアーツは世界的に注目されている。

 

『世界のエリートはなぜ、美意識を鍛えるのか?』(山口 周著/2019年)によると、著名なグローバル企業の多くが、美意識を鍛えるべく、アートスクールに幹部候補を送り込んでいるのだとか。

 

なぜなら、これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできないからである。

 

また、『編集思考』(佐々木紀彦著/2019年)には、Thought(思想)でどうまわりをリードできるかが、人や企業の競争力を大きく左右すると書かれている。

そして、Thought(思想)を練り上げるには、相当なセンスと知的体力と情熱が要求され、Thought(思想)の力を磨くためには、歴史や哲学などに裏打ちされた教養が欠かせないのだという。

 

IQ148の天才的な頭脳を持つRMのことだ。おそらく、リベラルアーツが自らに与える影響について承知の上で、積極的に取り入れているのではないだろうか。

 

なぜそう思ったかというと、何気なく見たいくつかの映像で、彼がそれらしきコメントをしたり、行動をしていたからだ。

 

例えば、「(幼い頃から芸能活動をしてきたために)僕はちゃんと勉強をしてきていない」と話すJUNG KOOKに、RMは「学校で習うことだけが勉強じゃないよ」と返していた。

別の映像では、メンバーに「これからは感性の時代だよ」と話していた。また、哲学者・ソクラテスの本を読んでいた。最近は、美術史の本を読んでいるのだという。

美術館や歴史的な建造物、ものづくりの現場などによく足を運んでいるし、韓国の国立現代美術館に1億ウォン(約980万円)もの寄付をしている。

 

これらのコメントや行動から、リベラルアーツの匂いがプンプンと漂ってきたのだ。

しかも、美術史の本については「本当におもしろくて、近頃はこのジャンルばかり読んでいる」と話している。どうやら、義務感で取り組んでいるのではなく、本人の純粋な興味においてリベラルアーツに触れているようだ。

20代の若者で、なおかつヒップホップをやっているラッパーで、「美術史がおもしろい」と言う人など、いるだろうか。彼は、ものすごく稀なセンスを持った人なのだと思う。

 

もともと賢い人だから、幼い頃からいろんなことを考え、感じて生きてきたはず。その素養がリベラルアーツによってどんどん磨かれて、一層、感受性や語彙力を高め、思慮を深くしているのだろう。

 

メンバーはインタビューで

 

「RMの書く歌詞にはいつも感心する。どうしてこんなステキな表現ができるのだろう」

 

「こういう意味で歌詞を書きたいけれど、行き詰っていると話したら、ものの3分で『こういうことでしょ?』と素晴らしい歌詞を書きあげてくれた」

 

「こんな表現は、RMにしかできない」

 

などと語っている。RMは、BTSの哲学を根本から支え、グループ全体を、そして楽曲を輝かせる大きな存在なのだ。

 

彼の「どうかみなさん、自分自身を愛するために、僕たちを利用してください」という、GIVERの象徴ともいうべき「与える姿勢」は、慈愛に満ちていて、もはやマザーテレサの域。

このRMの態度に、マンネラインはもちろん、ヒョンラインの他のメンバーも大きく影響を受けているだろうと、私は考えている。

 

 

<精神年齢が高いヒョンライン>

 

ヒョンラインの他のメンバーJIN、SUGA、J-HOPEも、RMに負けず劣らず根っからのGIVER性質の持ち主だ。

 

JINは、年齢差に逆らうことが許されない韓国において、最年長であるにもかかわらず、まったく偉そうに振る舞うことがない。むしろ弟たちのいじられ役を買って出るようなフラットで優しい心を持った人だ。

事務所に入ったばかりの頃、JUNG KOOKがホームシックになってしまったときには、自分の実家に彼を連れて行き、「ここを第二の実家だと思っていい」と言ったのだとか。

 

よく冗談を言っては、みんなを笑わせて、まわりの空気を温かくする。その理由を彼は「まわりの人が笑顔になってくれたら、自分が幸せな気持ちになれるから」と話す。

自分の幸せと、まわりの人の幸せがイコールであること。これは、自分が認識する「意義」のもとに他者と自己が一体化するという、GIVERの特性そのものである。

 

また、事務所に入った際、他のメンバーがダンスや歌、ラップの経験者であるなかで、JINだけが唯一の未経験者だった。だから、彼は人一倍努力して、他のメンバーのレベルに追いつこうとした。

スーパースターになった今でも、世界に誇るBTSのパフォーマンスの足を引っ張ってはいけないと、決められた練習時間以外にも自主練習を積み重ね、日々、必死に自身のスキルを上げ続けている。

そんな影の努力を、彼はほとんど他のメンバーには見せないという。それは、「努力は人に見せるものではない。自分だけがわかっていればいい」というポリシーがあるから。

 

チームで仕事をするときに、みんなの幸せのために高い成果を出すことに目的を設定する、GIVERの他者志向性の特性が垣間見える。

 

続いては、SUGA。感情表現が下手で、ぶっきらぼうに見えるが、熱い想いと優しさを胸に秘めたツンデレ男子である。

デビュー前の練習生時代、年末に他のメンバーが全員実家へ帰省するなか、宿舎に残ったJ-HOPEに電話をかけてきたSUGA。J-HOPEが「誰もいなくて暇だよ」と話すと、しばらくしてSUGAがチキンを買って宿舎に現れたのだという。

そんな「惚れてまうやろ」的なエピソードをいくつも持っているのが、SUGAなのだ。

 

そして彼こそ、最も楽曲を通して自分の胸の内をさらけ出し、むき出しの感情をファンに見せている人物だと思う。

アンダーグラウンドのラッパーだった彼は、アイドルとしてデビューしたことで、ラッパー仲間たちにかなり馬鹿にされたのだとか。そういう連中に対しての怒りや、今に見ていろという上昇志向のマインドを、彼は歌詞の中にふんだんに込めている。

人気者になってからは、「ほら見たことか、何ならお前らに代わって俺が親孝行してやるぜ」というような内容の歌詞も書いている(『MIC DROP』)。

 

それだけではない。ソロの楽曲では、うつ病、強迫性障害などの病と闘ってきたことまで明らかにしている。

ここまで赤裸々に、自らの感情や弱さをファンに見せるアイドルは、未だかつていなかったのではないだろうか。

 

GIVERは、弱みをさらけ出すことを恐れず、弱さを見せることで信望を集める。

 

SUGAは、アイドルとして輝く姿の裏側を、本音を綴った歌詞を通してさらけ出し、多くのファンから称賛を受けている。

 

続いて、J-HOPE。私の推しである。いつも前向きで、明るくて、HOPEという名を体現して生きている、グループの太陽のような人だ。

彼は、幼少期からダンスに夢中で、実力をめきめきと伸ばし、韓国国内のダンスの大会で数多く優勝経験を積み、鳴り物入りで事務所へ入った。

後から入所したVは、友人から「チョン・ホソク(J-HOPEの本名)のいるチームに入るんだろ?」と言われたのだとか。当時から、知る人ぞ知るダンスの名手だったのだ。

 

そんな彼は、あのとんでもなく優秀なリーダーであるRMに「リーダーとしての役割の半分を担ってくれている」「自分は対外的なリーダーに過ぎない。チームのパフォーマンスを引っ張ってくれているのはお前だよ」と言わしめるほど、チーム内で重要な役割を果たしている。

最年長のJINも、「J-HOPEはリーダーシップに優れている」と、絶対の信頼を置いているし、JUNG KOOKも「RMが仕事のリーダーだとしたら、プライベートのリーダーはJ-HOPE」と語っている。

 

ダンスの振り付けを他のメンバーよりも早く覚えることができるJ-HOPEは、まだマスターしていないメンバーに、積極的に指導をする。

振り付けを合わせる場面では、自らカウントをとって全員の動きをくまなくチェック。ズレているところはないか、全体の見え方はどうか、細かいところまで目を配る。

コンサート前には、リハーサルでの動きを振り返ってメンバーにアドバイスをするし、一つ一つの曲で、どんなところに気を付けてパフォーマンスするべきかを伝え、意識の統一を図る。

「BTSのパフォーマンスはすごい」と、ファンのみならず多くの人が言うが、彼らのパフォーマンスのクオリティを担保している立役者は、間違いなくJ-HOPEだろう。

 

彼もまた、グループ全体のために自らの力を尽くす、GIVERそのものである。

 

とあるインタビューで彼はこんなことを言っていた。

 

「世界中の人たちの憧れの対象になった今、使命感を強く感じる。憧れになるということは、素晴らしいことだけれど、すごく怖いことでもある。隠れてしまいたいときも、逃げてしまいたいときもある。

 

全部あきらめて手放してしまいたいと思うときもあるが、この立場や、多くの人の視線や愛、応援があるから、簡単に手放すことができない。ある意味、立場が人を作り上げるのかもしれない」

 

スーパースターの苦悩を痛いほどに感じる発言だけれど、ここで注目したいのは、彼が使った「使命感」という言葉だ。

一挙手一投足に視線が集まり、ささいな発言ですら、大きく扱われて賛否にさらされる。その立場が変わらないのだとしたら、多くの人に、積極的に良い影響を与えていこう。自分たちを応援してくれる人がいるのだとしたら、それに必死に報いよう。そんな想いが、「使命感」という言葉に集約されている気がする。

 

自分のためではなく、誰かのために。そう腹を括っているのだろう。だからこそ、彼はGIVERとしての振る舞いが自然とできるのだ。

 

メンバー同士がお酒を飲みながらトークをする企画で、SUGAとRMはこんなことを話していた。

 

SUGA

「家族が〝お前が防弾少年団でも、そうじゃなかったとしても、同じ家族で、人間だ。そんなに負担を感じて苦しまなくていい″と言ってくれた。それを聞いて、あぁ確かに僕は防弾少年団のSUGAだけれど、それはそれであって、僕には僕の人生があると思うことができた」

 

RM

「尊敬している先輩が僕にこう言った。ラップモンスター(RMの一つ前の芸名)が滅んでも、キム・ナムジュン(RMの本名)が滅びるわけじゃない。だからいつもその区別をするように心がけろ、と。

この仕事が終わったとしても、お前の人生が終わるわけじゃない。自分を同一視するなと。だからそれからは僕はその言葉を慰めにして、1人でいる方法を練習してきた」

 

また、「BTSのメンバーである自分と、普段の自分はどう違うのか」という話題のなかで、SUGAはこんなことも言っていた。

 

「人はいつも一貫して同じではいられない。まわりの人は僕たちに〝それは作られた姿だ″と言うし、表の姿と裏の姿が違うと言うけれど、芸能人だけではなく、すべての人がそうなんだ。

どうして、この人にはこのように対応して、この人にはこんなふうに接してしまうんだろうと悩む必要はない。人にはいろんな面があって当然だ」

 

この2人の話を聞き、私は、『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎著/2012年)を読んで、心が軽くなったことを思い出した。

 

この本で著者は、「たった一つの『本当の自分』など存在しない。対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて『本当の自分』なのだ」と述べている。

 

だから、例えば職場や学校での自分がうまくいっていなかったとしても、別の場所で好きな自分としていられるのであれば、そこを足場に生きていけばいい。

そう考えることができたら、何があっても自分を全否定するようなことにはならないのだ。

 

BTSのメンバーは、今、いくつもある自分の側面のなかで、「BTSである自分」の割合が多くを占めているのだと思う。それが彼らの仕事であり、誇りでもあるのだから、当然のことだ。

けれど「BTSである自分」が辛くなるときも往々にしてあるはずだ。スーパースターにしかわからない悩みが、彼らを苦しめることもあるだろう。

 

でも、「BTSである自分」が自分のすべてではないと考えることができたら、少しは心が軽くなるに違いない。

 

このような、自分で自分の精神のバランスをとる考え方を、SUGAとRMの2人がこの若さでできてることが本当に素晴らしいなと思ったし、こういう、物事をプラスに捉える思考の仕方をメンバーに共有しているのが、すごくいいなと思った。

 

彼らのように聡明な人がいるのといないのでは、グループのメンタルヘルスの保たれ方がまったく違うと思う。

 

精神のバランスの話で言うと、SUGAはもしかしたらマインドフルネスを実践しているのかもしれないなと、私は思っている。

 

「最近、感情に鈍くなる練習をしている。冷静な心を維持しようとしている」と話しているのを見たし、誰かが「SUGAヒョンは瞑想をしているらしい」と言っていたから。

 

マインドフルネスとは、無意識の感情や思考を手放して、「今、ここにいる自分」にだけ意識を向けることで、心を穏やかにする方法のこと。

主に、瞑想をはじめとした呼吸法を通して実践できるものなのだとか。

 

『マインドフルネス 瞑想入門』(吉田昌生著/2015年)によると、マインドフルネスを日常に取り入れることで、

 

・集中力が高まって、仕事やスポーツ、勉強などの効率が上がる

・ストレスが解消され、心が安定する

・直観力、洞察力が高まる

・思いやりが深くなり、人間関係が良くなる

・眠りの質が高まる

・幸福感が高まり、自信が生まれる

 

など、さまざまな良い効果が生まれるという。

 

『FUTURE INTELIGENCE これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣』(スコット・カウフマン&キャロリング・レゴワール著/2018年)には、「マインドフルネスがクリエイティブ思考にもたらす恩恵は多い」と書かれている。

 

多忙を極め、常に人の目にさらされ、良いものを作らなければならないというプレッシャーに苛まれる彼らだからこそ、積極的に精神のバランスをとる方法を探すはずだ。

そこできっと、SUGAはマインドフルネスと出合って、実践しているのではないかと推測している。

 

 

<すくすくとGIVERの素質を伸ばしたマンネライン>

 

驚くほど人間性に優れたヒョンラインのメンバーに、GIVERとしての特性を引き出してもらったマンネラインのメンバーたちについても、触れていこう。

 

まずは「キューティー、セクシー、ラブリー」が代名詞のJIMIN。甘え上手、愛嬌上手なかわいらしい一面と、ステージ上で見せる妖艶なパフォーマンスのギャップに惹かれるファンが多い。

メンバー全員で旅をするドキュメンタリーのなかで、VがJIMINに宛て、涙を浮かべながら読んだ手紙に、JIMINのGIVER的な性質を見ることができた。

 

「トイレで泣いていると一緒に泣いてくれて、夜中にこっそり外に出て一緒に笑ってくれて、気遣ってくれて、考えてくれて、僕のために努力してくれて、悩みを聞いてくれて、理解してくれて、出来損ないの僕を好きでいてくれて」

 

文字を打っているだけで、涙がこぼれそうになる。JIMINは、なんて心の優しい子なのだろうか。

パフォーマンスがうまくいかなくて落ち込んで泣いているJUNG KOOKを励ましたり、コンサート会場にいる両親を見つけて思わず泣き崩れたSUGAに寄り添ったり。涙するメンバーのそばにはいつも、JIMINがいる。

その存在にどれだけ、メンバーは救われているだろう。

 

彼は、JUNG KOOKいわく「JIMINほど、練習をする人を見たことがない」というほどの努力家。また、SUGAに「JIMINの声が好きだ」と誉められても「JUNG KOOKほど上手くは歌えない。もっと上手にならなくちゃ」と答える謙虚な人。

奢ることなく常に上を見て、自分を高めようとする一番の理由は、チームのためだ。GIVER的な思考を持って、仲間のために努力できる人なのである。

 

私は、JIMINのこのコメントが大好きだ。

 

「友だちにチームのことを褒められるのがすごくうれしい。チームのことを悪く言う人とは、関係を断ちます」

 

チームへの愛が溢れた言葉に、心が温かくなる。

 

続いて、V。「美の暴力」とまで評される美しい顔立ちで、グループで一番といっても過言ではないほどの絶大な人気を誇るメンバーだ。

熱狂的なファンが、彼の誕生日にドバイにある世界一高いタワー「ブルジュ・ハリ」に広告を出し、彼のソロ曲にのせた噴水ショーまで行ったと聞いた。とんでもない愛され方である。

 

彼の魅力は何といっても、「四次元」「五歳児」ともいわれる天然キャラとピュアな心。彼のユニークな発言や行動に、メンバーたちが爆笑している様子をよく目にする。

まわりが自然と世話を焼きたくなる愛されキャラだし、前述したJIMIN宛ての手紙にも、「いつももらってばかりでごめん」と書いていたし、彼は「与えられる側」なのかなと思いがちだが、大親友のJIMINいわく「僕も彼にたくさん助けてもらっている」とのこと。

 

そもそも、他人から与えてもらうことが当たり前だと思っている人や、与えてもらうことしか考えていない人は、自分がもらってばかりだということに、注意すら払わない。

他人から与えてもらうことのありがたみを感じられる人こそ、他人に与えることができるのだ。

 

彼はインタビューでこんなことを話している。

 

「メンバーと一緒に成長してきて、今は、一人が転んでしまったら、みんなで転ぶのと同じことだと思っている。自分のためだけに頑張ろうというのではなく、それぞれが7人分頑張ったら、僕たちはどれだけ転んでもずっと立ち上がれる気がする」

 

頑張るのは、チームのため。ほかのメンバーのため。この言葉は、VがGIVERであることを、わかりやすく示している。

 

そして、黄金の末っ子、JUNG KOOK。メンバーが口を揃えて「歌もダンスも上手い。絵を描かせても、運動をさせても、映像を撮らせても、何をさせても上手。おまけに顔もかっこいい」と常日頃から語る、才能あふれる人物だ。

BTSの不動のセンターであり、メインボーカル。「彼なしでBTSは成り立たない」と、メンバーから全幅の信頼を寄せられている。

しかし、当の本人は「自分ではそうは思わない。もっと努力して、理想の姿に近づきたい」と、どこまでも謙虚だ。

 

『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』によると、非常に才能のある人は他人に嫉妬されやすく、嫌われたり、うらまれたり、仲間はずれにされたり、陰で中傷されたりするという調査結果があるのだという。

ただし、それがGIVERであれば、攻撃されることはない。むしろグループに貢献するので感謝されるのだとか。

 

圧倒的な才能を持っているにもかかわらず、JUNG KOOKがメンバーに嫉妬されるどころか称賛されるのは、彼がGIVERだからにほかならない。

 

韓国のとある番組に出演した際、JUNG KOOKはこんなことを話していた。

 

「スケジュールがキツイとか、そういうしんどさにはもう慣れた。でも、ヒョンたちが精神的に辛そうにしているときに、何もしてあげられないことがすごく辛い」

 

いつも自分を支え、引っ張り、ときに励まし、かわいがってくれるヒョンたちを、自分も支えたり、励ましたりしたい。だけど、未熟さゆえにそれができない。JUNG KOOKのピュアな想いが伝わってくる言葉だ。

センターで踊り、メインボーカルとして力を発揮してくれるだけで十分にその役割を果たしているのだけれど、それでもなお、グループの役に立ちたいと願うJUNG KOOKの優しさに、胸が熱くなる。

 

同著には、人が抱く一般的な「自己評価」と「他人への評価」について、次のように書かれている。

 

人はカップルやグループ内などで、自分の貢献度合いを過大評価することが多い。それは、自分の貢献を高く見積もる「責任のバイアス」がかかっているからである。

人は、「他人がしてくれたこと」よりも自分が「してあげたこと」に関する情報をより多く手に入れる。

 

また、こうも書かれている。

 

TAKERは、上手くいかないときは相手のせいにし、上手くいったときは自分の手柄にしようとする。

しかし、GIVERは、うまくいかないときは自分が責任を負い、うまくいっているときは、すぐにほかの人を褒める。

 

BTSのメンバーのやりとりを見ていると、「自分以外の誰か」を褒めているシーンを本当によく目にする。「今日のステージは、〇〇がかっこよかった」「〇〇、よくやったよ」「この間、〇〇がこんなことをしてくれた」などなど。

褒められた側はそれに対して、十中八九、照れて小さくなったり、耳を真っ赤にしたりする。「どうだ、すごいだろ」なんて態度をとる人は誰もいない。

 

一般的には自分を過大評価する人が多いなかで、彼らは自分を脇に置いておいて、とことん他人を評価するのだ。

自分が一番よく見られたいとか、自分が最も優れているだとか、そんなことは微塵も思っていないのだろう。謙虚で、どこまでも相手を敬う姿勢。どうしてこんなにも自分に溺れずいられるのだろうか。感心してもし切れない。

 

GIVERの特徴的な交渉術の一つが、「アドバイスを求めること」。誰かに何かを聞くことは、自分の自信のなさを伝え、弱さを見せることだ。だから、TAKERやMATCHERは、人にものを聞くことにしり込みする。自分がか弱く、依存的で、無能に見えるのではないかと恐れているのだ。

GIVERがアドバイスを求めるのは、純粋に他人から学びたいと思っているからだ。

 

彼らは本当によく、パフォーマンスについて互いにアドバイスをし合っている。不安があればすぐ、できる人に尋ねる。求められれば、丁寧に応じる。できない自分を隠したりせず、できないからこそ学ぼうとする。成長しようとする。

 

GIVERは、成功をさざ波のように周囲の人々に広げることができる。仲間を助けることで、仲間の才能を伸ばし、協力関係の効果を倍増させるのである。

 

最高の協力関係、相互の補完関係が築かれているチーム。だからこそ、常に高いクオリティのパフォーマンスを披露することができるのだ。

 

 

【Part4/BTSを支える事務所の「GIVER的振る舞い」】

 

Part2ではグループ全体の、Part3ではメンバーそれぞれのGIVER的な特徴について述べてきた。Part4では、彼らの事務所、BigHitエンターテインメントについて書いていきたい。

 

 

<才能を見抜き、伸ばす力>

 

BTSのすごいところは、メンバーだけでなく、彼らを導く事務所(プロデューサーのパン・シヒョク氏ほか、彼らのプロデュースに深く関わっている人)までもが、GIVERであるという点だ。

 

なぜそう思ったか。

Part2と3では特に触れるべきポイントがなかったため、Part1に書かなかったが、『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』には、GIVERの特徴について次のような記述もある。

 

●天才を育てる人は、GIVERになる傾向がある。彼らは自分の知力を使って、ほかの人々の知性や能力を増幅して、ひらめきを引き起こし、アイデアを生み出し、問題を解決させる。

 

●成功しているGIVERは、「人に対する評価」の分野で独自のコミュニケーション法を用いる。才能を見極めてそれを伸ばし、最高の結果を引き出すための実用的なテクニックを持つ。

 

●見込みがありそうな人間にだけ目をかけるTAKERと異なり、GIVERは、可能性の片鱗が見え隠れするまで、待ったりしない。他人の意図を疑わず、楽観的に解釈するので、すべての人のなかに可能性を見出そうとする。

 

●GIVERは、才能を見つけることをするのではなく、「磨く」ことに価値を置く。

 

これを見ると、BigHitエンターテインメントがBTSのメンバーひとりひとりを見つけ出し、訓練し、デビューさせ、彼らの成功を後押ししたことは、GIVERだからこそ成し得たことなのではないかと思うのである。

 

『FUTURE INTELIGENCE これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣』に、興味深い記述を見つけた。

 

この本は、クリエイティブな人の特性について解き明かし、解説している。

そのなかで、下記のような発達心理学者の研究結果と、発言が引用されていた。

 

才能に恵まれた子どもたちは、困難に直面してもやり遂げ、成長の過程で出会う多くの障害を克服することができる。才能の有無とは、『うまくなりたいという強烈な熱意』を持てるかどうかで決まる。

 

また、次のようなことも書かれている。

 

価値あるものを生み出すために必要なスキルを習熟するのは、情熱だけでなく努力が必要なのだ。

 

調和的な情熱を持つ人は、熟達したいという意欲が強いがゆえに、多くの練習をこなす。やっていて面白く、また個人的に意義深いものであれば、練習はたいして苦にならない。

 

クリエイティブ思考で、意欲あふれる人々は、夢を叶えるためなら何でもする人、という自己像に恋をする。そしてこれが自己達成的な予言になる。

 

プロデューサーのパン・シヒョク氏をはじめ、GIVERであるBigHitエンターテインメントの主たる面々は、現BTSのメンバーのなかに、このような「努力できる力」「根性」「ひたすら夢を追うメンタル」を見たのではないだろうか。

 

パン・シヒョク氏は、才能ある人材が使い捨てされている韓国のアイドル業界に違和感を覚え、BTS結成にあたって、これまでの形とは異なるグループの構想を抱いたのだという。

 

「原石を集め、メンバーの内に秘めた炎、意欲、個性を強化して、真のアイドルにふさわしいグループを創り上げること」に力を注いだ。

「メンバーの選考は入念に行い、潜在的な才能はもちろんのこと、底なしで褪せることのない強い意欲を持ったアーティストを探した」

※『RISE OF BANGTAN』(カーラー・J・スティーブンス著/2019年) より

 

プロデューサーという立場を優先するのであれば、使い捨てだろうが何だろうが、とにかく売れるコンテンツを世に出して、ヒットさせれば良い。

けれど、彼はそうではなく、メンバーの才能や人としての魅力を優先し、長く愛されるアイドルを生み出そうとした。その点において、パン・シヒョク氏は、大いにGIVER的な人だと言えるだろう。

 

「うまくなりたいという強烈な熱意」があるかどうか。「熟達したいという意欲が強く、苦に思うことなく多くの練習をこなす」ことができる人かどうか。

現時点で何かに秀でていることよりも、「やる気」「意欲」「根性」に価値を置き、クリエイティブな才能を見極めてメンバーを選んだパン・シヒョク氏の先見の明はすごいと思う。

 

韓国の芸能事務所は、所属タレントと7年の契約期間を結ぶことが多く、これまでたくさんのグループが、次の7年の契約を更新せずに解散や、一部のメンバーの脱退を決断している。

そんななかで、BTSは2019年に円満に契約を更新。向こう7年の活動を確かなものにした。このことに、多くのファンが肩を撫でおろした。

 

韓国では、一般的に所属アーティストは、契約更新の席に弁護士などの代理人を同席させるのが普通だという。しかし、彼らの契約更新の場には、パン・シヒョク氏とBTSのメンバー7人しかいなかったのだとか。

BTSのメンバーが、事務所を、そしてパン・シヒョク氏をどれだけ信頼してるかがよくわかるエピソードだ。

 

BTSのメンバーは、事務所とパン・シヒョク氏を「自分たちの才能を伸ばして、多くの機会を与えてくれる存在」と認識しているのではないだろうか。

 

『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』には、ある人が集団を率いた際、ミスをした人を責めず、サポートするGIVER的な振る舞いをした方が、そうしなかったときよりも高い功績を達成できたという研究結果が紹介されている。

成績の良くない生徒や、差別を受けているマイノリティグループの生徒の成績と知能検査のスコアを向上させるには、教師が生徒に対し「期待を抱くこと」がとりわけ重要だと結論付ける実験結果も記されている。

 

メンバーの才能を信じて種をまき、期待を見せて能力という芽を出させ、花を咲かせる。

天才を育てる人、天才を育てる事務所。まさに、BigHitエンターテインメントは、成功するGIVERなのだと思う。

 

 

<同僚であり、家族でもある絶妙な関係性>

 

私はBTSを通して初めて韓国のアイドルの世界を知った。そして、BigHitエンターテインメントに限らず、多くの芸能事務所がグループのメンバーをデビュー前から共同生活させている事実に驚いた。

BTSのメンバーも例外ではなく、デビューメンバーが決まる以前から、事務所が用意した宿舎で一緒に暮らし、寝食を共にして絆を深めてきた。

 

この韓国のアイドルグループ特有の過程を経て、彼らは「同僚」という関係性と、「家族」のような関係性を両立している。

その絶妙な関係性が、グループの成長にとって非常に大きな役割を果たしていると私は思う。

 

『WORK SHIFT』(リンダ・グラットン著/2012年)には、職業上の生産性を維持する「ポッセ」という集団と、精神の健康を維持する「自己再生のコミュニティ」について、下記のように書かれている。

 

●ポッセの特徴

 

・比較的少人数のグループで、声を掛ければすぐ力になってくれる面々の集まり。メンバー同士の専門技能や知識がある程度重なり合っている。専門分野が近ければ、お互いの能力を十分に評価できるし、仲間の能力を生かしやすい。

 

・構成メンバーは、一緒に活動したことがあり、自分のことを信頼している人たちでなくてはならない。知り合ったばかりの人ではなく、自分のことが好きで、自分の力になりたいと思ってくれている人であることが重要だ。

 

・充実したポッセを築きたければ、他の人と協力する技能に磨きをかけなくてはならない。他人に上手にものを教え、多様性の強みを最大限生かし、うまくコミュニケーションをとる技能が必要だ。

 

孤独に仕事をすれば、視野が狭くなり、退屈なアイデアしか生み出せなくなる。しかし、ポッセの力を借りることで、仕事の生産性を維持することができる。

 

●自己再生のコミュニティの特徴

 

・バーチャルではなく、現実の世界で頻繁に会い、一緒に食事をしたり、冗談を言って笑い合ったり、プライベートなことを語り合ったりして、くつろいで過ごす人間関係のこと。

 

・深く結びついた友人同士や家族などの間で成立し、長い時間をかけて形成される。

 

このような自己再生のコミュニティは、生活の質を高め、精神の健康と幸福感を維持して、活力を生み出してくれる。そして、職業生活を成功させる土台となり、多くの場合は、その人の人生とアイデンティティの物語を紡ぐ要素にもなる。

 

通常、ポッセと自己再生のコミュニティは、重なり合わない場合が多いらしい。友人や家族が、自分と同様の専門技能の持ち主で構成されるとは限らないし、同じ専門技能を持った人たちと家族同然に長い時間を過ごすことはあまりないからである。

 

しかし、BTSは、ポッセと自己再生のコミュニティが重なり合った特殊な集団だ。仕事上では互いに良い影響を与え合い、私生活では喜びや悩みを共有したり、くだらない会話をして心を安らげたりすることができる同士なのである。

彼らにとってこのような関係性を持つ人は、グループのメンバー以外に存在しない。だからこそ一層、メンバーのことを貴重な仲間だと思えるのである。

 

RMは、彼らのドキュメンタリー作品のなかで、こんなことを話していた。

「僕と同じ立場の人が、僕のほかに6人いるとわかっているからこそ、今まで狂わずに、上手くやってこられた」

 

それに対して、JIMINが続ける。

「お互いに大変だとわかっているから、お互いに与える影響が知らず知らずのうちにとても大きくなっていると思う」

 

Vは、

「泊まったホテルのテラスから、J-HOPEの部屋が見えた。窓からチラッとJ-HOPEの姿が見えただけで、気分が良くなって、安らぎを感じた」と話す。

 

また、JUNG KOOKはこう語る。

「移動する車で、向かい合って座るときがあるでしょう?そのとき、目が合って笑ったり、そういうことだけで安らげる」

 

JINは、

「もしこの先、みんなと離れることがあっても、よく会って一緒にいる仲でありたい。だって今、一緒にいる時間が幸せだから」と語る。

 

この深い心のつながり合いは、一朝一夕で育まれるものではないし、時間をかければ自然と築かれるものかと言ったら、そんなことはないだろう。

同じ夢を見て、苦楽を共にし、互いを理解し、尊重して、尊敬の念を抱き合い、互いがなくてはならない存在であるとわかり合えている者同士の間にしか生まれないもの。

 

そのかけがえのない絆が、優れた才能を持った7人の間で結ばれているのだから、それはもう、大きな、とても大きなパワーを作り出して、キラキラと輝きを放つのも当然なのではないだろうか。

 

韓国の芸能事務所がどの程度、このようなプラスの効果を意識してアイドルグループに共同生活をさせているかはわからない。

単純に、メンバーの生活を管理しやすいというのが最大の理由なのかもしれない。互いに相容れない者同士が集まってしまったグループであれば、共同生活がマイナスに働くこともあるだろう。

 

しかし、BTSのメンバーにとっては、この共同生活という韓国のアイドルグループのシステムが、確実に良い成果を生み出したと言えるだろう。

 


 

【Part5/BTSに「与えられた」ARMYの「恩送り」】

 

<MATCHERやTAKERをもGIVERにする、BTSのパワー>

 

2014年、旅客船セウォル号沈没事件が起きた際、ARMYは、珍島群住民福祉課へ、トイレットペーパーやマスク、タオル、カイロ、使い捨ての下着など救護物資を送った。

 

これは、BTSのメンバーやBigHitエンターテインメントが事故の遺族へ寄付をするより前に、自主的に行われたことだ。

 

2020年にBTSとBigHitエンターテインメントが黒人差別に反対する抗議運動「Black Lives Matter」支援のため、100万ドル(約1億1000万円)を寄付した際には、ARMYはこれと同じ金額を寄付しようと呼びかけ、寄付リレーを行った。

 

この他にも、ARMYは度々、有志が先導して多くの寄付活動を行っている。

 

また、ARMYが行っているのは、寄付だけでない。2018年には有志の呼びかけにより、世界中のARMYが集って「Army Help Centre(AHC)」という組織が設立された。

この組織は、精神的な援助を必要としたあらゆる世代のARMYに、無償で手を差し伸べる活動をしている。精神科医や精神科の学生などがボランティアで、カウンセラーとしてインターネットやSNSなどを通じて24時間相談を受け付けているという。

 

※『RISE OF BANGTAN』(カーラー・J・スティーブンス著/2019年) より

 

もはや、ARMYは単なるアイドルのファンの域を超えて、意志をもって行動する大きなGIVERの塊となっているのだ。

 

これは、『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』にある「恩送り」そのものである。

「恩送り」とは何か。同著には、このように記されている。

 

人間は、他人に助けてもらった恩を感じると、その恩をほかの誰かに「送る」ようになる。これはつまり、GIVERは自分のネットワークの人々にGIVERとして行動していくよう背中を押しているということなのだ。

 

この「恩送り」と呼ばれる行為は、感謝の気持ちに対する自然な反応であり、そこには、人助けを当たり前のものにしたいという願いが込められている。

 

BTSが発するメッセージや、日々見せる努力する姿、そして努力を実らせて披露する素晴らしいパフォーマンス。それらに、生きる希望や前を向く力、自分を愛する勇気をもらったARMYは、背中を押されて自らもGIVER的な行動を起こす。

 

「恩送り」について、同著には、このようなエピソードも紹介されている。

 

アメリカで次のような2つのインターネット上のプラットフォームサービスが誕生した。

 

●クレイズリスト:買い手と売り手が公正な値段で、品物やサービスを交換できる。

 

●フリーサイクル:品物が欲しい人とそれを処分したい人を結び付ける。売買・交換不可。

 

この2つのプラットフォームを比較すると、金銭を介した取引をするクレイズリストは、多くの人がMATCHERだという事実を利用して、人々に価値を交換させている。

一方で、金銭が発生せず「無償で譲る」システムであるフリーサイクルは、人々にGIVERになってくれることを前提にしている。

 

後者のフリーサイクルの利用者を観察すると、おもしろいことがわかった。フリーサイクルは、MATCHERとTAKERを、GIVERのように振る舞わせることに成功したのだ。

 

フリーサイクルを介してベビーカーやチャイルドシートなどをもらった親たちは、タダでもらったものを、クレイズリストで売ってひと儲けしようとはせず、また無償で提供し始めた。

最初は、売れそうにない不用品を処分するためにフリーサイクルに出品したMATCHERやTAKERも、もらった相手のことを気に掛けるようになる。「もらい手にお礼を言われたとき、とてもいい気分がした。すっかり病みつきになって、ほかの商品も提供するようになった」と。

 

クレイズリストで品物を買うと、売り手は普通、買い手の利益はほとんど気に掛けず、自分ができるだけ得をしようとする。

それに対し、フリーサイクルのように、与えることが当たり前である場合、提供者は受け取った人からまったく何も得ることがない。利用者がフリーサイクルで品物を受け取ることは、無条件でGIVERから贈り物をもらっているということなのだ。

 

与えることが当たり前に行われているコミュニティでは、人から人へ与える行為が繰り返される。そして、そこに所属している人は、得た利益をコミュニティ全体のおかげだと考える。

自分はコミュニティから贈り物を受け取っている気分になれ、コミュニティとの絆が深まっていく。そこから生まれる感謝の気持ちと善意が、さらに、コミュニティ全体への人助けの循環を生み出す。

 

親切をするのが当たり前の環境のなかで、人はそれに右習えする。目に見える形で親切をするをすることによって、フリーサイクルは人々に、それが当然だと理解しやすくしている。

 

このように、影響力の大きなGIVERは、もともとMATCHERとTAKERであった人に「恩送り」の意識を植え付け、GIVERとして振る舞わせることができるのである。

そもそも、ほとんどの人はMATCHERの性質を持っているというから、GIVER集団・ARMYをつくった、BTSというグループのGIVERパワーのすごさがどれだけかということがわかるだろう。

 

成功するGIVERは、価値を交換するのではなく、ひたすら価値を「増やす」ことを目指す。

 

GIVERは、助けた人たちのうち何人が自分にお返しをしてくれるだろうか、とは考えない。TAKERは、自分を偉く見せて、有権者に取り入るためにネットワークを広げ、MATCHERは人に親切にしてもらうためにネットワークを広げる。それに対し、GIVERは「与えるチャンス」を生み出すためにネットワークを広げているのだ。

 

BTSが持ち前のGIVER精神をフルに使って、GIVERとして振る舞えば振る舞うほど、世の中に「恩送り」が広がっていく。

BTSは、世界平和の一端すら担っているのではないかと、私は本気で考えている。

 


 

【おわりに】

 

ここまでBTSの類まれなるGIVER的な特性を見てきて、私はふと心配になってしまった。他人に与えてばかりいる彼らは、辛くはないのだろうか?疲れてしまわないのだろうか?と。

 

先日、とあるインタビューでJ-HOPEが「ジャスティン・ビーバーの『Lonely』という曲に共感した」と話したと知り、心配はさらに増した。

 

『Lonely』の歌詞には、幼くして成功したジャスティン自身の心の痛み、成功者であるがゆえの寂しさが綴られている。

 

誰もが僕のことを知っている

僕はすべてを手にした

でも誰も僕の心の声を聞いてはくれない

そんなの寂しすぎる、寂しすぎるよ

 

こんな切ない内容なのだ。

スーパースターの心の内を、私のような人間が推し量ることは難しい。しかし、本当にギリギリのところで彼らは生きているんだろうなと、胸が痛む。

 

でも、『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』には、その心配を払拭してくれるようなことが書いてあり、私は少し安心した。

 

GIVERが燃え尽きるのは、与えすぎたことよりも、与えたことでもたらされた影響を、前向きに認めてもらえないことが原因なのである。

 

GIVERは、与えることに時間とエネルギーを注ぎこみすぎるせいで燃え尽きるのではない。困っている人をうまく助けてやれないときに、燃え尽きるのである。

 

GIVERは、自分自身の幸せを守ることの大切さを理解している。いまにも燃え尽きそうになると、人に助けを求め、やる気や気力を維持するのに必要なアドバイスや、協力を仰ぐ。

 

なるほど。自分が与えることによって、誰かが幸せになること、それが彼らの幸せ。だから、自分の存在によって笑顔になってくれる人がいるとわかれば、彼らは辛くないし、疲れもしない。

そして辛いときは、ちゃんと、誰かに助けを求めることができるのだ。

 

また、生粋のGIVERは、GIVER的振る舞いを重ねることで、自らの精神力や気力を鍛えることさえできるのだという。

 

GIVERは、ほかの人を助けるために、利己的な衝動を常に抑えているので、精神的な筋肉が強化され、つらい作業で気力を使い果たしても疲労困憊することがないのである。

 

GIVERは、自分の思考、感情、振る舞いをコントロールするのが得意がことが明らかになっている。筋トレと同じように、気力のトレーニングが行われ、気力が鍛えられているのかもしれない。

 

与えることに喜びを感じ、与えることで自分も強くなる。本当に、GIVERとはなんて神々しい存在なのだろうか。

 

そして、『FUTURE INTELIGENCE これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣』には、彼らのようにクリエイティブな性質を持った人の幸せの感じ方について、こんなことが書いてあった。

 

クリエイティブ思考の人々は、そのオープンさや繊細さゆえに、しばし苦しみや痛みにさらされるが、同時に非常に多くの喜びも味わう。

 

感受性の高い人は鋭い洞察や観察を表現したい、共有したいという欲求が非常に強く、ゆえに彼らにとって作品は単なる情熱の表出ではなく、表現せずにいられないものなのだ。

 

自分はクリエイティブ思考であるという自覚を持ち、日々の生活において実践していくことは、人を本来の自分自身を結び付けてくれる。クリエイティブ思考をもってすいれば、人生のいかなる状況にも前向きに取り組むことができる。

 

クリエイティブな生き方をしている人は、そうでない人に比べて、心が開かれていて、想像力に富み、知的好奇心があり、エネルギッシュで、社交的で、粘り強く、自らの活動から活力を得やすい。また、幸福感や日々成長しているという実感を得やすい。

 

敏感な人は、クリエイティブな仕事を通して自分のバイタリティや感情を社会に伝え、自らの経験に意義を見出すことができる。

 

彼らのようなクリエイティブな人物は、表現活動や創作活動などのクリエイティブな営みを通して、幸福感を得ているらしい。良かった。

 

GIVERであり、クリエイティブである彼らは、凡人にはどうやっても理解できない世界のなかで、自分なりの喜びや、幸せを感じ、生きているのだ。彼らが幸せであることを願ってやまないファンの立場からすると、ほっと胸をなでおろす記述である。

 

また、同著にはこんな一文もある。

 

クリエイティブで敏感な人の鋭い洞察力は芸術作品につながり、その作品を通して私たちは、自分自身や世界における自分の立ち位置を、新たな光のもとで見ることができるのだ。

 

これには、首がもげるほどうなずいてしまった。彼らが生み出すものを通して、自分自身や世界における自分の立ち位置を、新たな光のもとで見ることができたARMYは、世界中に山ほどいるだろう。私もその一人だ。

 

ここまでさんざん引用に引用を重ねてきた『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』は、次のような一文で締めくくられている。

 

私たちがほんの少しでもGIVERになったら、もっと大きな成功や、豊かな人生や、より鮮やかな時間が手に入るだろうか。それは、やってみるだけの価値はある。

 

私は自分がGIVEしたらTAKEを欲する、完全なMATCHERだと自覚している。しかし、彼らを見習うこと、そして、何かしら「恩送り」の行為をすることで、少しでもGIVERに近づけるように努力したいと思う。

 

同著によると、どうやら意識的に行動を変えていけば、TAKERであってもGIVERに近づくことができるらしい。

 

TAKERをGIVERとして振る舞わせる状況を作り出すカギは、与えることを人目にさらすことにある。重要なのは、動機ではなく、行動そのものだ。たとえ動機が利己的なものであっても、与えるシステムの維持に貢献していることはあきらかだ。

 

最初に行動を変えれば、信念もあとからついてくる。自分の選択によって繰り返し与えていると、与えることを自分の個性の一部として内面化するようになる。

 

行動に信念がついてくる。これは、GIVERを目指す目指さないの話に限らず、人生におけるあらゆる場面において当てはまる教えだと思う。

口で言っているだけでは、何も変わらない。理想があるなら、それに近づくために、動き出すべきだ。そうすることで、すでに、一歩理想に近づいているのだから。

 

異国のだいぶ年下のアイドルグループにハマったことで、こんなにも生き方や自分自身のことを深く考えるようになるだなんて、私は思いもしなかった。

彼らには、本当に感謝の想いしかない。この気持ちを伝えるのに、「ありがとう」の言葉しか選べないことがもどかしいけれど、何度でも「ありがとう」を伝えたい。

 

私は、世界中に何千万、何億といるARMYの、端くれ中の端くれでしかなけれど、日本の片隅でこれからも、感謝を込めて彼らを応援し続けたいと思う。

 

 

2021年2月18日 推しの誕生日に、自宅のダイニングでコーヒーを飲みながら。

 


 

こんなにも長い、ちょっとした卒論並みの量の文章をここまで読んでくださって、ありがとうございました。

ぜひあなたも、これからさまざま目にする彼らの発言、振る舞い、スタンス、メッセージから、GIVER的な特徴を探してみてください。

 

最後に、一つお願いです。価値観は人それぞれ。私がここに書いたことに対して、反対意見、異論などを持つ人もいるでしょう。

しかし、これを読んで、もし何か思うことがあったとしても、「この人はこういう意見を持っているのだな」と流していただければ幸いです。

 


 

<参考文献>

 

『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(アダム・グラント著/2014年)

 

『ニューズウィーク日本版』2020年12月1日号

 

『RISE OF BANGTAN』(カーラー・J・スティーブンス著/2019年)

 

『世界のエリートはなぜ、美意識を鍛えるのか?』(山口 周著/2019年)

 

『編集思考』(佐々木紀彦著/2019年)

 

『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/2016年)

 

『おとなの教養 私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』(池上彰著/2014年)

 

『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎著/2012年)

 

『マインドフルネス 瞑想入門』(吉田昌生著/2015年)

 

『FUTURE INTELIGENCE これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣』(スコット・カウフマン&キャロリング・レゴワール著/2018年)

 

『WORK SHIFT』(リンダ・グラットン著/2012年)

  

『なぜBTSは寄付や啓蒙活動に注力するのか?原体験は「ホームレスの言葉」』

 

※これらの本は、それぞれ、このコラムを書くためではなく、自分の知見を広めるために読みました。

それがまさかこういう形で役立つだなんて。どれも知的好奇心を満たしてくれるおもしろい本なので、気になった人はぜひ読んでみてください。