BOOK 6

言葉って不思議だと思いませんか?

(晴香葉子 著/彩雲出版/2015年)

結婚情報誌「ゼクシィ」で、何度か取材をさせていただいたことがある、心理学者・晴香葉子先生の本。晴香先生は、物腰柔らかで、こちらの質問に対して一つ一つ真摯に答えてくれるので、いつも、気持ちの良い取材ができ、ありがたい。

 

人が何か言葉を発するとき、実際はその言葉通りであることは少ない。言葉の裏には必ず別の想いが秘められているが、人はそれを自覚することなく、発していることが多いのだという。


33の言葉を取り上げ、そのとき、人は何を想ってその言葉を口にしているのか、そして、その言葉を言われた側はどんな対応をすればいいのかについて、心理学者の視点で記している。

 

本書で扱っている33の言葉は、次の通り。

 

第一章 会話の言葉
1 信じる
2 許す
3 できない
4 思うけど言えない
5 わかった
6 考えとく
7 勝手にしろ
 
第二章 恋愛の言葉
8 純愛
9 恋心
10 心変わり
11 運命

 

第三章 人間関係の言葉
12 人間関係
13 トラブル
14 嫉妬
15 依怙贔屓
16 知ったかぶり
17 ここだけの話
18 悪口
19 褒める
20 感謝
21 傷ついた
22 愛

 

第四章 在り方
23 続かなかった
24 やる気が出ない
25 決められない
26 だってしかたない
27 私なんて
28 がんばる
29 自尊心

 

第五章 人生を彩る言葉
30 情熱
31 希望
32 幸せ
33 自由

 

※言葉そのものについて解説しているページもあれば、そういう概念をもった言葉について解説しているページもある。

 

どれも、私たちが日常生活で使いそうな言葉。これらを用いる際、その人の心のなかにある前提、用いられやすいシチュエーションがわかりやすく書かれている。


「そうそう!」「確かに…」と納得感を持って読み進めることができた。

なかでも、私が「ありがたや」と、その記述に感謝の念すら持った解説を紹介したい。

 


▶23 続かなかった

・前提にあるもの:不誠実、なまけ心
・頻出するシチュエーション:中途半端が許される場

 

何かを途中で止めるときに、「続かなかった」と言う人がいます。

 

「続かなかった」という言葉は、中途半端が許される場では止める理由になりますが、全うすることが前提の場では、通用しないものです。続けてやったところに結果や答えがあることも多いので、「ものにならない人」「評価を得られない人」と判断されてしまうこともあります。

 

仕事にしても、人間関係にしても、「続かなかった」という言い方をする人は、仕事や他者に対する集中力が低く、やると決めたことや関わると決めた人に対して、やや不誠実な面があります。

 

そして、続かなかったという理由を正当化するために何かのせいにします。

「担当の先生を、好きになれなかった」
「仕事が忙しくて」

 

また、自分のせいにすることもあります。

「自分が悪いんだけど」

 

そのような場合も、進んで自ら非を認め、自分の潔さをアピールすることで、続かなかった自分を正当化しています。

いずれにせよ、自己正当化欲求が高く、飽きやすく、続かない割には、すぐに別のものに飛びつく人も多いです。

 

自分の怠け心に対して甘いところがあるので、「続かなかった」と言われたら、こうしたら?ああしたら?とあれこれ助言するよりも「続いた試し、ないじゃない!」くらい言ってみても大丈夫です。

 

⇒⇒ほんと、ほんと。「続かなかった自分を正当化」してる人、そこらじゅうにごろごろいるから、納得感がすごい。
 それに対して、「次、頑張ればいいよ」「次はいいところだといいね」と、気のない返事をする自分もいて。
 そんな人にはならないようにしよう、という自分への戒め。ありがたや。

 

 

▶24 やる気がでない

・前提にあるもの:自堕落、なまけ心、言い訳
・頻出するシチュエーション:なあなあの関係

 

「やる気がでない」という言葉は、開き直りたいときに、同じく開き直りたい人との会話でよく登場します。「なんか」とセットで使われることが多いです。


「なんかやる気がでないな」
「ほんと、なんかやる気がでないよね」

 

テストの前など、勉強するのが嫌になってしまったときなどは、一緒にいる人の開き直りを大歓迎してしまうものなのです。


「やる気出ないな~」
「ほんと、やる気出ないよね。今さらやってもしょうがないよ。もういいか。何とかなるよ」
「もう、やめやめ!」

 

開き直っても大丈夫な、なあなあで済むような場で頻出します。

 

休みの日に出かけた方が良い用事があるのに、家でゴロゴロしたいときには、その状況を正当化するのにもってこいの言葉でもあります。
「今日は、なんかやる気がでないな~。ゆっくりするか」

 

自分が開き直るだけでなく、誰かを引きずり込むときにも使われます。


「最近もう、恋愛とかやる気がなくなっちゃたよね」
「なんか、仕事とかもう、やる気出ないよね」

 

耳にするとなんだか安心してしまう言葉でもありますが、うっかりそれでいいと思ってしまったら、開き直りウイルスを招き入れてしまいます。

 

「やる気出ないな」と言われたら、
「まぁ、そんなときもあるよ!」と‟相手の問題”ということにしておきましょう。

 

長い人生では、そんなときもあっていいだろうし、その人は今はそれで良いのだろうし、実のところあなたにとっては、‟差をつけるチャンス”なのです。

 

⇒⇒「実のところあなたにとっては、‟差をつけるチャンス”」という言葉にハッとした。
 まわりのマイナスな雑音に影響されることなく生きていくって、なかなか大変。でも、そこでグッと堪えられる人が、勝利をつかむのだろう。胸に刻んでおきたい。ありがたや。
  

▶33 自由

・前提にあるもの:何でも自分でできる
・頻出するシチュエーション:依存しないでいい状態

 

「自由」という言葉を口にするとき、何かから逃げたくて、または逃げ出した後に、使う人も多いです。

 

今の仕事を辞めたくて。「自由になりたい」
離婚して。「今日から自由だ」

 

拘束された状態からの解放を意味するときもあります。

 

子育てが終わって。「時間が自由になった」
試験期間が終わって。「やっと自由だ」
忙しい仕事が一段落して。「今日だけは自由だ」

 

好き勝手できるようになった状態を表して言う人もいますが、自由という言葉がもつ本来の意味は、自分勝手できることでもなく、何かから逃げ出せた状態でもありません。

 

「自由」とは、仏教用語で「自らに由る(おのずからによる)」です。他に依存することなく、自分自身を拠り所にし、独立し、存在することを意味します。


修行が進んだうえで得られる徳であり、何事にも囚われることのない悟りを得た状態です。他者の意見に簡単に振り回されることもなく、自らに由って立ち、何でもできるから「自由」であり、依存が必要な限り、不自由なのです。

 

勝手気ままな状態ではなく、自分のことにすべて責任をもち、自分の足でしっかり立っている、そのような意味で、ぜひ使いたい言葉ですね。

 

⇒⇒フリーランスになって、たまに「自由でいいね」「楽しそうでいいね」なんて言われることがある。その度、「は?ラクに見えるならお前もやってみろよ」と腹が立つ。

 

晴香先生が書いているように、「勝手気ままな状態ではなく、自分のことにすべて責任をもち、自分の足でしっかり立つ」のは、意外と大変だし、その大変さを表立ってアピールするつもりもないだけ。

 

自分の想いを代弁してくれたみたいで、心がスッキリした。ありがたや。


その他にも、自らを省みるような、そして、あぁ、こういう人いるいる、でもこうならないでおこう、と心を引き締められるような解説が盛りだくさん。心理学っておもしろいなぁ。