365日のシンプルライフ
(監督&主演:ペトリ・ルーッカイネン/2013年)

 

おいおい。いきなり、やることが極端だな。いやでも、私、こういうの嫌いじゃない。


何もない部屋から全裸で雪が降る街へ飛び出し、倉庫にコートだけを取りに行く。そんなクレイジーな冒頭シーンで、すぐに心をつかまれてしまった。


これは、フィンランドに住む26歳のペトリが実際に行った、1年をかけた壮大な実験の記録。モノにあふれた生活から自分を解放すべく、持ち物すべてを倉庫に預けるところから始まる。

 

1日1つだけ、倉庫に必要なものを取りに行く。1年間、新しいモノは何も買わない。それを365日続けるのである。

 

何も、下着や洋服、靴まで預けなくたって。倉庫へ行く途中に通報でもされたら、早くも1日目でTHE ENDだと思うのだけれど、彼はいたって真剣だ。

 

1日目:コート
2日目:靴
3日目:ブランケット
4日目:ジーンズ
5日目:シャツ
6日目:ネックウォーマー
7日目:マットレス
8日目:靴下
9日目:ズボン
10日目:帽子

 

7日目にマットレスに飛び込んだときの、彼の幸せそうな姿と言ったら。毎日モノが増えていくことに喜びを感じ、「このままいくと365日毎日祭りだな」という名言まで飛び出した。

 

そして、まだパンツも履いてない、雪の降りしきる季節に靴下も履いていない、風呂上りにはコートで体を拭く、歯を手で磨く、マーガリンを指ですくってパンに塗り付けているにも関わらず、7日目にして早くも「もうこれ以上必要なモノはない」とか言い出す始末。

 

これには、本当にウケた。そんなわけないだろ。正気に戻れ!

 

その後、少し目を覚ました彼だけれど、結局、50~60個で必要なモノが浮かばなくなったという。


1日1つモノを増やすのだから、最終的には365個になるわけだが、あまりにも欲しいモノがなく、自分で作ったそのルールにうんざりしている様子も映されていて、それにもまたウケてしまった。

 

また、彼は4カ月間、スマホなしで生活し、友人に「連絡がとれない」と怒られながらも、「電話がなくても生きていける」と自信満々に語っていた。


しかし、「4カ月もスマホなしで生活できたのだから、きっとずっとできる。それが証明されたから、もういいだろう」とスマホを取りに行く。「おいおい。何だ、その言い訳!?」と、思わずツッコミを入れてしまった。

 

こういう、天然で、変わっていて、率直な、憎めないペトリのキャラクターが、このドキュメンタリーをよりユニークなものにしている。


クレイジーな彼の挑戦に、呆れながらも家族や友人たちが温かく協力するのは、彼の人柄ゆえだろう。「人に恵まれてて、良かったねぇ」と思うような場面がたくさんあった。

 

困ったとき、いつも相談をしにいくペトリのおばあちゃんも、すっごくかわいくて。そして、おばあちゃんは、長く生きてきた人だからこそのハッとさせられるような言葉を、彼に与えるのである。

 

365日の実験を終え、「生活に必要なモノは100個くらい」「その次の100個は生活を楽しむため」とわかったペトリ。

 

「所有とは責任であり、モノは重荷になる。どんな重荷を背負うか、僕は自分で決める。人生はモノでできていない」

 

そんな気付きを得た彼のこれからの暮らしは、きっと豊かになるに違いない。

 

よし、自粛期間の仕上げに、断捨離するか…!