BOOK 1

ヨシダ、裸でアフリカをゆく

(ヨシダナギ著/扶桑社/2016年)

かつて、私が最も好きだったテレビ番組「クレイジージャーニー」(とあるロケでやらせが発覚し、昨年、放送が打ち切られた…)。様々な職業・嗜好で世界の国々を旅する人たちを追った、ドキュメント・バラエティで、その名の通りクレイジーな旅を堪能することができる、とてもエキサイティングな番組だった。

 

その番組で知ったのが、この本の著者・ヨシダナギさん。アフリカ各国に足を運び、少数民族を撮影している女性フォトグラファーだ。裸族だろうがおかまいなし。尋ねた民族と同じ格好をして距離を縮め、心を通わせた上で撮る彼女の写真は、唯一無二の魅力がある。


少数民族とひと口に言っても本当に様々で、民族によって身につけている服の色合いも、メイクも、髪型も、ハダカ度合いも全然違う。けれども、ナギさんが撮る民族は圧倒的に美しく、格好よく、気高くて、写真の前で思わずため息をついてしまうほど。

(ナギさんのWEBサイトで、少し写真が見られるので、こちらからぜひどうぞ。)

 

そんなナギさんが、初めてアフリカを訪れた2009年から、2014年までの旅の記録が記されているのが、本書。エチオピアやタンザニアは聞いたことがあるけど、ジブチやチャド、ブルキナファソなど耳にしたことがないような国も登場し、旅好きの血が騒ぐ。

 

文章は、まるでナギさんが近くでおしゃべりをしてくれているかような親しみやすさ。「え?マジ?」と思うような過酷なエピソードも、クスっと笑いながら読めてしまうユーモアたっぷりの書き口、リアルな心情が伝わる飾らない文体は、お手本にしたいほど素晴らしい。
かわいらしくて、ステキな写真も撮れて、おもしろい文章も書けるなんて、天は彼女にいくつ才を与えたのだろう。

 

まったく英語ができないところから始まった、アフリカへの旅。けれど、言葉ができなくても心は通じるということを実感するような出来事を、何度も何度も繰り返して、その度にたくましくなっていく。
パッケージツアーでは決して起こりえない、多くのステキな出会い、ハプニング、学びが、どんどんナギさんをアフリカ好きにさせていくさまに、自然と共感してしまう。

 

特筆すべきは、アフリカの人たちの人懐っこさ。
見ず知らずの日本人に、すれ違う人誰もが「Hello,my friend!」と挨拶をしてくる町があったり、「ナカムラー!」と謎の名前で呼びかけてきたと思ったら、突然ナギさんを肩に担いで走り出しちゃったり。
肉屋にラクダを食べに行ったら、周りの客が次々と自分が注文した肉を口に放り込んできたり、野宿をしようとしていたら見ず知らずのおばあちゃんが家に泊めてくれたり、初対面なのに食事をしにおいでと自宅に招いてくれたり。
日本ではありえない距離感で、スッと懐に飛び込んでくる、フレンドリーな国民性。貧しいながらも、心は豊かな、彼らの生き方に触れることができる。

 

そして、アフリカのローカルな文化のおもしろさ。
お腹いっぱいでもう食べられないアイスクリームに限って、無言で奪い取ってもOKな謎のルールがあったり、野生のハイエナを手なずけて即席ハイエナショーが行われたり。動物のウンコを口に含んで飛ばす遊びが流行っていたり。

 

さらに、泥水のようなビールを飲まされる、蚊が4匹埋まった目玉焼きを出される、ゴキブリだらけの部屋に泊まる、草むらですっぽんぽんで水を浴びる、エアコンの吹き出し口からイグアナが飛び出してくる…。

そんな、アフリカの旅らしい仰天エピソードも満載で、ナギさんたくまし過ぎるよ…と軽く引きながらも、夢中になって、一気に読み切ってしまった。

 

あとがきには、こう書かれている。
「もちろん、アフリカではいいことばかりが起きるわけではない。腹が立つことも、悲しくなることも多々起こったりするのだが、それ以上に面白おかしいことが日常的に起こる。そんなアフリカのおかげで、私の性格は少しずつ明るくなったし、強くもなった。あまり喜怒哀楽がなかった私が、アフリカで大笑いしたり、ときには泣きわめいたり、感情をむき出しにできるようになった」

 

私も度々、ひとりで海外を旅する。アフリカほどのインパクトがあるわけではないが、回数を重ねるごとに、無駄なものがそぎ落とされて大事なものだけが残るような感覚が、なんとなくある。何かを判断をするべき人間が自分しかいない時、自然と自分の本性みたいなものが出てくるのだけれど、それによって自分と向き合い、芯から強くなっていくような感じ。


それが快感でもあり、ひとり旅を続ける大きな理由なのだけれど、ナギさんもそんな感覚なのかなぁ。

飛躍的に発展を遂げているアフリカ。少数民族もやがてはいなくなってしまうかもしれない。一度でいいからこの目で見てみたい。そんな願望が、今、ふつふつと沸いている。


オマケ。昨年、ナギさんの写真展に行った際のひとコマ。顔ハメで少数民族体験。

ナギさんの活動状況は、Instagramでチェック。(2度ほど、投稿にコメントしたら、いずれもご本人が返信をしてくれるという、神対応!)