夏時間

(監督・脚本:ユン・ダンヒ/主演:チェ・ジョンウン/2019年)

 

 

あぁ、泣けた。主人公の少女の気持ちが痛いほどに伝わってきて、家で見ていたとしたら、私も彼女と同じように、声をあげておいおいと泣いていたと思う。

 

1990年生まれ、韓国の女性監督ユン・ダンヒ氏の作品。10代の少女・オクジュは、夏休みのとある日、事業に失敗した父と弟とともに、祖父が暮らす家に引っ越す。

祖父は体調が思わしくなく、積極的に孫たちに関わってこようとはしない。オクジュと弟は最初のうちはそんな祖父との関係に戸惑っていたが、温かい眼差しで見守り、淡々と日々を過ごす祖父の姿に、いつしか親しみを覚えていく。

 

4人で始まった新たな暮らし。そこへ父の妹(オクジュにとっては叔母)が離婚の危機を迎えて転がり込んでくる。

庭になっているトマトや唐辛子、ブドウを採ったり、みんなで料理を作って食べたり。一緒に洗濯物を干したり。なんでもないのだけれど、心温まる家族のやりとりが、見ていて心地良かった。

 

素晴らしかったのは、登場人物たちのナチュラルな演技と、懐かしさを感じさせる祖父の家の佇まい。

役者たちは皆、カメラで撮られていることをまるで意識していないかのようだった。オクジュと弟のケンカや、何気ないやりとりは本当の姉弟みたいだったし、祖父役のキム・サンドン氏は頭が回りづらくなってしまった老人そのもの。父役のヤン・フンジュ氏もどこにでもいる情けない父親でしかなかった。

 

祖父の家として登場する古い大きな邸宅は、ひと目見てそこが気に入った監督が、辛抱強く家主に頼んで使わせてもらえることになったのだという。家具や小道具なども、極力もともとそこにあったものを使ったとのこと。

 

長く住まわれた家ならではの、何とも言えない味わい、ほどよい散らかって生活観があふれた室内。それがものすごくリアルだった。2階の大きな窓から降り注ぐ太陽の光、青々と茂る庭の緑、髪の毛を揺らす風。一つ一つのシーンが、この家のおかげで美しく切り取られていた。

 

離れて暮らす母へ反発心を抱いたり、恋する相手のために二重手術をしたいと言い出したり、勝手に父親の商売道具のスニーカーを売り飛ばそうとして警察沙汰になったり、祖父の死を体験したり。

 

オクジュは、発展途上の小さな胸の内にさまざまな想いを抱いて、悩み、葛藤する。そのどれもが、誰の身にも起こりうる身近なテーマだから、見ている側はオクジュの心が手にとるようにわかるのだ。

 

その苛立ち、不安、涙の理由を。

 

父と叔母が、祖父を老人ホームに入れることを相談してきたときも、祖父の家を売りに出そうとしていることを知ったときも、オクジュは「おじいちゃんに聞かずに勝手に決めたらダメ」と主張する。それに対して「お前だって勝手にスニーカーを売ろうとしたじゃないか。同じことだ」と言う父。「同じじゃない!」と返すオクジュ。

そのとき、私は彼女と同時に「同じじゃない!」と心の中で叫んだ。いつのまにか、私はすっかり彼女に共感して、まるで私自身が幼い青春の夏の日を過ごしているかのような錯覚に陥っていたのだった。

 

まだ3月で、これからいろんな作品を見るだろうけれど、この作品は今年の私のトップ5に入りそう。

「はちどり」のキム・ボラ、「82年生まれ、キム・ジヨン」のキム・ドヨンに続き、若い韓国の女性監督から目が離せない。