パンとスープとネコ日和

(2013年/WOWOW 連続ドラマ/主演:小林聡美)

美味しそうで、可愛いそう。そんなタイトルに惹かれ、なおかつ、小林聡美が主演だということで、癒しを求めて見てみた。


作家・群ようこの同名作品をドラマ化したもので、55分ほどのショートストーリー×全4話のシリーズ。

 

心がほっこりする絶妙なキャスティング、物語を彩る美味しい料理の数々、じんわりと胸を打つ淡々とした日常、そして猫のかわいさ。とっても好きな世界観で、この世界に、私も入れたらいいのになと思ったほど。

 

舞台は都内のとある街。駅前には昔ながらの商店街があって、少し歩くと住宅地と公園があって。都会すぎず、いい塩梅。


小林聡美が演じるアキコは、そこで食堂を営む母とふたりで暮らしていた。ところが、母が店で倒れ、急死してしまう。ほどなくして、長年、出版社で編集者として働いていたアキコに、転機が訪れる。突然、上司に異動を言い渡されたのだ。


編集の仕事が好きだったアキコは、迷うことなく退職。そして、しばらく自分自身と向き合った結果、母の食堂を改装して、自分で店を始めることを決意する。

 

昔から料理が上手く、編集者時代の担当作家にもよくお手製のサンドイッチを差し入れていたアキコ。そんな彼女が開いたのは、サンドイッチとスープのお店。そして、店のオープンとほぼ同時に、野良猫を保護して飼い始めた。

 

それで、タイトルが「パンとスープとネコ日和」というわけ。

 

アキコの店の斜め向かいにある古い喫茶店の店主に、もたいまさこ。そこの従業員に美波。


母亡き後のアキコを気に掛けてくれる、近所の花屋の店主に、光石研。同じく駄菓子屋の店主に、塩見三省。


アキコの店で働くことになったアルバイト店員に、伽奈。住職で、アキコの腹違いの弟に、加瀬亮。

 

主要な登場人物が、みんな、本当にいい感じのゆるい雰囲気で、彼らの間で心温まるコミュニケーションが繰り広げられる。

 

ほかにも、市川実和子や、平岩紙など、ちょい役として出てくる人も、「いいねぇ」としみじみ言いたくなるような演者ばかりで。

 

それに、とにかくもう、アキコが作る料理の美味しそうなことと言ったら。小林聡美が2006年に主演した、映画「かもめ食堂」と同じく、フードスタイリングは飯島奈美さんが手掛けているのだとか。

 

日替わりのサンドイッチとスープは、どれも素材の味を生かした目にも美しいメニューばかり。アキコが毎日、日本酒片手にする晩酌のアテも、酒好きの心をくすぐる品ぞろい。しかも、いつも、器までステキなの。

 

店の内装や外観、自宅のインテリアも、素朴で温かみがあって、こんな店出したいな、こんな家に住みたいなと思うような雰囲気で、すごくいい。

 

物語としては、冒頭でアキコの母が亡くなるのが、一番大きな出来事かもしれない。それ以降は、穏やかに日々が過ぎていく。たまに、もたいまさこの毒舌が炸裂するけど、誰かが怒ったり、わんわん泣いたり、大げさに喜んだりすることもなく、波長のゆるやかな喜怒哀楽が生まれては、消える。

 

特筆すべきは、伽奈が演じたアルバイト店員のしまちゃん。ものすごく天然でおもしろくて、ゆるキャラみたいな子。とても演技とは思えないナチュラルな存在感で、回を重ねるごとに、しまちゃんが大好きになっていった。

 

きっと、伽奈自身もそういう子で、キャラクターを生かした配役なんだろうな。あれが完全な役作りによる演技なのだとしたら、末恐ろしいもの。

 

そういえば、伽奈は昔、ゼクシィにもモデルとしてよく出ていたなぁ。私は一緒に仕事をしたことはなかったが、当時、キャスティングしておけば良かったなぁ。現在36歳らしいので、さすがにもうウエディング雑誌には呼べないかもしれないけど、別の機会、があれば、ぜひ彼女にオファーしてみたい。

 

何か特別なことをしなくても、自分自身が楽しんで、誠実に毎日を生きていれば、自然とまわりに人が集まり、気付かぬうちにその人たちに支えられている。逆に自分が、その人たちを支えもする。


そういう、忘れがちな人間関係の基本みたいなものを、この物語は教えてくれる。派手じゃなくていい。与えられた役割と向き合って、地道に暮らす。そういう人に、私もなりたい。