僕の好きな女の子

(監督・脚本:玉田真也/主演:渡辺大知/2020年)

 

冒頭の待ち合わせのシーンで、「あぁ、私ダメかも、この映画…。どうしよう、せっかく炎天下のなか見に来たのに…」と思ってしまった。

 

SNS上に絶賛コメントが並んでいるところ、ほんとごめんなさいだけど、私にとっては、まるでホラー映画のようだったのよ…。

 

(まぁ、公式Twitterがリツイートしているコメントなんて、いいやつだけをピックアップしてるんだろうけどね)

 

ざっくり言うと、これは、報われない片思いの物語。

 

渡辺大知演じる加藤は、奈緒演じる美帆に恋をしている。でも、美帆にはほかに好きな人がいて、後に、彼氏ができたと報告されてしまう。そして、酷なことに、彼氏も含めて3人で会うことになるという。

 

「僕の好きな人は、僕のことを好きにはならない」

 

そんな、男の悲しい片思い。

 

(原作は、ピースの又吉直樹が、2017年「別冊カドカワ 総力特集『又吉直樹』」に書き下ろした恋愛エッセイなんだって。だから、美帆は、又吉が好きなタイプの女の子なんだろうなって思っている)

 

 

あらすじだけを聞くと、切ない純愛映画かなって、思うでしょ? でもなぜ、私がこれを「まるでホラー映画」と感じたか。

 

答えは簡単。ヒロインの美帆が、とんでもないサイコパス女だったからである。明らかに自分に好意のある男をナチュラルに弄び、己の気の赴くままに傍若無人に振る舞う、恐ろしい女。

 

「怖い、怖い…」「いやいや、それはないよ」「うわぁ…なんてこった…」「やば…」

 

鑑賞中、こんなことを、何度心の中でつぶやいただろうか。

 

例えば、思わず早々にギブしかけた冒頭のシーンはこうだ。

 

12時に駅前で、という単純な待ち合わせ。特に遅れるわけでもないのに、意味もなく美帆は「12時でいいんだよね」と加藤へLINEを送る。そして「11:50の方がいい」と謎の提案をもちかける。

 

「それもいいね」と話に乗ってくれる加藤に、「11:55でもいいか」とまた謎の提案。そして、それにも乗ってあげる加藤に「逆に12:05とか」と、さらに次なる提案をするのである。

 

この時点で、私は、「めんどくさそうな女だ…」とモヤモヤしてしまうのだが、その後がもっとやばい。

 

「喉が渇いたから一つ前の駅で降りてコンビニに寄った」という美帆。手にはファミリーサイズみたいな大きなりんごジュースを持っている。

 

加藤がすかさず「大き過ぎない?」と突っ込むのだが、なんと美帆はそれを加藤に手渡し、同じジュースをもう1本カバンから取り出すのである。

 

そして加藤にジュースを飲むように勧め、わざと、口を付ける前に「どう?美味しい?」と尋ねて、加藤の突っ込みを待つ。

 

加えて、おもむろにカメラを取り出し、ジュースを飲む加藤を撮り始める。「急に撮るなよ~」と困惑しながらも、うれしそうな加藤。

 

その後、急にカバンから大量にマンガを取り出して、「これ、返すね」と、加藤に裸のまま押し付ける。「今日手ぶらなんだけど…」と困る加藤に、「手で持てばいいじゃん!」と満面の笑みで返す。

 

……おわかりいただけただろうか。健全な大人の女性にはちょっと理解できない、狂気的な行動が一気に繰り出されるのである。

 

その行動がすべて、なかなかのテンションなのである。素面なのに、一杯ひっかけてきたかのようなハイさ。無理やりに「無邪気」と呼べなくもないが、到底、そんなかわいいものには思えなかった。

 

完全にどん引き。よくあるカップルの微笑ましいイチャイチャだとは、とらえることができないレベルなのである。

 

不思議ちゃんな自分に酔っているというか、目の前に自分に気のある男がいるからこそ、ちょっと変わっている自分をアピールしているというか…。

 

 

ほかにも、居酒屋から出る時に、わざと加藤の靴を履いて困らせるとか(しかも、履いたまま外にまで出て、加藤には自分の靴を履かせ、さらにはそれを履いて帰っていった)。

 

夜に加藤を空き地に呼び出し、工事中の敷地の中でショベルカーに乗って待っているとか。派手に転んで足を擦りむき、血を拭いたティッシュを「これあげる」と言って加藤に押し付けるとか。

 

並んで歩いたり、一緒に何かをするときの加藤との距離感も、友人のそれではないし、ふざけた延長でさりげなく、でもがっつりとボディタッチをする。

 

とにかく、加藤を弄ぶ美帆の一挙手一投足が怖くて怖くて、仕方ない。

 

 

美帆に好きな人がいることを知っている加藤は、自分の気持ちを伝えることができない。それどころか、友達以上恋人未満のふたりの関係性に尊ささえ感じ、そこに逃げてしまう。

 

だから、美帆に「振られた」と告げてられてもなお、告白をしない。そうしているうちに、美帆には別の彼氏ができてしまうのだ。

 

そして、加藤がうっかり「会ってみたいな」と言ってしまったもんだから、好きな女とその彼氏のイチャイチャを見せつけられるという地獄の時間を、加藤は味わうことになる。

 

彼氏は勘の良い人で、加藤が美帆を好きなことをすぐに見破る(まぁ、誰だって加藤の様子を見てたらすぐにわかるんだけどね)。

 

そのことを、美帆に話すのだが、美帆はまるで気づかなかったと、彼氏に言うのだ(そんなわけねーだろ!?)。

 

それには彼氏もびっくりして、「お前さ…」と、軽く呆れてしまう。するとどうだろう。美帆は、泣き出すのである。

 

えー!ここで泣くの!?都合が悪くなったら、泣けばいいと思ってるわけ!?!?!?

 

この時、私の心は、「やっべぇ、この女…」という恐怖でいっぱい。

 

 

きっと美帆って、あらゆる男に対して加藤に接するのと同じように振る舞うのだろう。だから、積極性のある男なら「俺に気があるな」と感じて、気軽に告白をするはず。

 

で、告白してきてくれた男とは、恋人関係になる。そうじゃない男は、そのままステイ。エサを大量にまいておいて、釣れた男と付き合うという感じ。

 

だから、おそらく、加藤がどこかのタイミングで告白をしていたとしたら、付き合えたんじゃないかなぁ。

 

だいたいいつも、まわりには彼氏候補が複数人いる。誰かれ構わず、無邪気に見せかけた身勝手さで、自由奔放に、不思議さを前面に出して振る舞っていると、時々誰かが告白してくれる。彼女のなかで、そういうシステムが出来上がっているのだろうな。

 

たまに、加藤のように、奥手すぎて告白できず、片思いの沼にハマる男もいて…。かわいそうに…。

 

はたから見たら、そんな女に引っかかっちゃって、ドンマイ…なのだけれど、恋している立場からしたら、「こんなに自分を振り回すいい女はこの子しかいない!」ってなっちゃうんだろうな。

 

そして、振られたとしても、「あんなに好きになれた子はあの子だけだった…」と、永遠にいい思い出化されるんだな、きっと。

 

いやぁ、重ね重ね、まったくもって恐ろしい女。だけど、又吉をはじめとして、世の中の大半の男性は、こういう女に落ちたい願望があるんだろうね…。

 

あー、ほんと、最初から最後まで、さらには余韻まで怖い映画だったなぁ。

 

健全な大人の女性には、おすすめできません。この子を見て、かわいいなと思う女性がいたら、メンタルヘルスが異常をきたしている可能性があります。気を付けて。

 

怖いもの見たさで行くならば、レディースデイにお安くどうぞ。