MOVIE 1

太陽を盗んだ男

(監督:長谷川和彦/主演:沢田研二/1979年)

2001年に実施された「20世紀ホントにおもしろかった映画ベスト100」で邦画第3位に選ばれた作品。


当時33歳の若き巨匠・長谷川和彦がメガホンをとり、アメリカでアカデミー賞・脚本賞を受賞したこともある、脚本家レナード・シュナイダーのオリジナル作品を映像化した。

 

平凡な毎日を送りながらも、どこか心にモヤモヤしたものを抱えていた中学教師・城戸(沢田研二)が、東海村の原子力発電所に忍び込み、プルトニウムのカプセルを盗む。


オンボロのアパートを実験室に、その有り余る化学の知識を駆使して、たった一人で原子爆弾を製造することに成功。そして、東京のみならず、日本を一撃で破壊してしまうかもしれないほどの威力を持った爆弾を手玉に、政府を脅迫するのだ。


爆弾が手元にある限り、政府も警察も、自分の言うことを何でも聞き入れる。しかしながら、彼にはさして、聞き入れてほしい野望など、なかった…。手始めに「プロ野球のナイター中継を中断せずに放送しろ」と要望を出し、それは叶ったものの、その次が思い浮かばない。


たとえ、決定的で揺るがない権力を手にしても、目的や大義名分がなければ、その力はただの虚しい産物。「お前は何をしたいんだ?」と彼が彼自身に尋ねるようなセリフが何度か出てくるのだが、最後までそれがわからないまま、けれどもその権力を失いたくないという執念だけが、空回りする。

 

私がこの作品を見たきっかけは、ジュリーこと沢田研二。個人的に、20代~30代のジュリーは神だと思っていて。こんな色気のある男、平成には一人もいなかったし、令和にもきっと現れないだろう。


彼の本業は歌手なのだが、とにかく、演技が上手い。芝居に限らず、歌うときですら、楽曲の主人公になり切る。歌とか芝居とか、そういうジャンルを超越した表現ができる、類まれなる才能の持ち主だと思う。

 

素顔の彼は、志村けんとのコントを見ればわかるように、ひょうきん者。でも、歌や芝居となると、そこに色気ムンムンの「二枚目フィルター」をまとい、さらにその上に、まるでその作品の中の人かのような「表現者フィルター」をまとう。


私が敬愛する、作詞家の阿久悠先生が、自身がプロデュースするドラマにジュリーを指名したのも、その後、物語性のある楽曲を次々に提供したのも、わかる気がする。作られた世界に、リアリティを生み出すことができる歌手であり、役者。ジュリーのすごさを、この作品では端々から感じることができる。

 

※オススメの、歌うジュリー動画

カサブランカ・ダンディ

サムライ

背中まで45分

 

そして、この作品は、長谷川監督の美的感覚というか、世界観の作り方にも脱帽。「はぁ、このシーンは目元だけにフォーカスしますか…」とか、「わぉ。ここ、わざわざ俯瞰で撮りますか…」とか、カメラワークがとことんおしゃれ。


また、「ここにいる人は全員エキストラなのか?そうだとしたら、半端ないな」という規模の、壮大なシーンも出てくるし、クラッシュや爆破もあるカーチェイスシーンは迫力満点だし、当時のシステムや技術でここまで見せられるんだ…!と驚く。

 

ジュリー以外の出演者も豪華。城戸と対峙する刑事役に、菅原文太。城戸と絡むラジオパーソナリティ役に、池上季実子。
若き日の水谷豊、風間杜夫、西田敏行などもちょい役で出ている。この人たちがちょい役って、すごいよね。

 

特に菅原文太の存在感はすごくて、鳥肌モノ。銃で撃たれても撃たれても、気力だけで立ち上がって城戸を追い詰める最後のシーンは、圧巻だ。

 

この作品をもしリメイクするとしたら。そんな妄想も楽しい。城戸役は…、菅田将暉もいいけど、もう少し成熟した雰囲気がほしいから、松坂桃李かな。三浦春馬も捨てがたい。刑事役は…うーん、菅原文太ほどのイカツさを出せる役者は今の若手ではいないけど、長瀬智也とか、意外といいかも。鈴木亮平もいいと思う。ヒロインは、長澤まさみ一択で!

 

とは言え、そこらでやたらとタバコ吸っちゃうとか、動物虐待っぽいシーンがあるのとか、きっとNGだろうし、脅迫の電話をかけるのが公衆電話じゃなくて携帯電話になってしまったら、話の展開が違ってきちゃうし、リメイクしたらしょぼくなっちゃうんだろうな。


とにかく、この時代ならではの空気感と、ジュリー×長谷川監督の作り出す狂気的な世界観をぜひ堪能してほしい。見て損はないと、言い切れる。