(監督:田中 亮/主演:長澤まさみ/2020年)
ドラマシリーズのときから、とにかく「脚本家・古沢良太さんの頭の中、いったいどうなってるの?」という感嘆と、驚愕と、羨望に打ちひしがれ続けている本作。
主要キャラクターのダー子、ボクちゃん、リチャードの三者三様のとがったキャラクターと、この三人が揃わなくちゃ!という絶妙なバディ感。
そして、ゲストがもれなく豪華かつ、完璧にキャラ立っており、悪者なのにどこか憎めなくて、いつの間にか愛してしまうような、ユニークな設定が秀逸。
肝心なコンフィデンスマンたちの「騙し」も巧妙で、練りに練られた展開と仕掛けで、必ず「やられたー!」と思わせられる。こんな惚れ惚れしちゃうような見事な作品は、長いドラマの歴史のなかで、そうそうないんじゃないかと思っている。
ファンとして、「待ってました!」と声を大にして言いたくなる劇場版の第2弾を、やっと見ることができた。今作も、もれなく期待を裏切らない傑作だった。
感想を言うよりも、見てもらった方が早いから、今日明日にでも映画館に行って!というのが本音。とは言え、このレビューページが意味をなさなくなってしまうので、ざっくり何が良かったのか、挙げてみたいと思う。
<王道感×映画版ならではのスケール感>
今作の脚本について、ボクちゃんを演じる東出昌大は、インタビューでこんなふうに語っている。
「ドラマ全10話、スペシャルドラマ、前作の映画(ロマンス編)と全部違うテイストの脚本だったのに、今回も新しい切り口の話で驚きました。それでいて2時間の超大作らしい王道感があって、実に映画的だなと」
王道感、そして、映画的。ほんとほんと、その通り。大成功してファンがたくさんいるドラマ作品の、期待を裏切らない超豪華な映画版を、見事に見せつけられたぜ!って感じ。
まず、どこを切っても画が煌びやか。資産10兆円の大富豪が残した遺産を狙うという設定らしく、シンガポールの超リッチな邸宅、マレーシアのリゾート地での華麗なパーティと、贅の限りを尽くした美術がすごい。
単純に、めちゃくちゃ金かかってんだろうなっていう。このスケール感の撮影は、そりゃあ、劇場版じゃなきゃできないよねっていう。長澤まさみもステキなドレスに身を包み、あの美貌をこれでもかというほどに披露している。
この画の華やかさだけで、ほんと、テンションがあがる。目と脳が喜ぶのである。
そして、今作のカギとなる人物、ミシェル・フウ役の少女の描き方がまた、憎い。親に捨てられ、犯罪に手を染めて不幸に生きてきたけれども、実は心が優しく芯の通った素朴な子で。
最初はみすぼらしかった彼女が、どんどん成長して、生き生きとして、自らの意志で行動を起こし、周りの人に良い影響を与えていく…。
彼女のストーリーだけを追うと、ごくごく単純なのだけれど、こういう王道なシンデレラストーリーに、弱いよね、私たち。
<ファンが喜ぶコンフィデンスマンJPらしさ>
上記で述べた王道感×圧倒的なスケール感をベースに、あらゆる人物が巧みに絡み合う、そこにコンフィデンスマンJPならではの、予測不可能な騙し合いが展開されていく。
終盤で映像が巻き戻されて真相が次々と明らかになっていく場面は、いつものことながら、ブラボー!
「わぉ、この人がここでこういう役回りをしてたのか!」「ここでこういうふうにやったと見せかけて、実はこうだったのか!」そんな驚きと発見の連続。
そして、ドラマ版や前回の映画に出ていた人たちが、引き続き登場し、ナイスな立ち回りをしてくれるところも、ファンにはたまらない。
恋愛詐欺師のジェシーは、相変わらず一分の隙もなくかっこよかったし、もはや騙され上手の赤星さんも、大いにやられて、いい悔し顔をしていたし。
くだらないギャグみたいなシーンも、似ていない親子のことを「桑田とMattよりは似てるわ!」と言ったりするくすっと笑えるセリフも、「そうそう、これがコンフィデンスマンJP!」とうれしくなる。
無駄なセリフ、無駄なシーンは一つもなくて、ずーっとずーっと、見る者の心は奪われっぱなしだ。
<コメディなのに、泣けちゃう>
長澤まさみは、脚本を読んでの感想を、インタビューでこう述べている。
「感動しました。私はいつもダー子を通して物語を追いますが、今回は家族のあり方や仲間のあり方など、人と人とのつながりみたいなものが深く描かれていたので、ジーンときてしまいました」
そう、私も図らずも、3回は泣きそうになってしまった。
今作のキーパーソンである、大富豪の隠し子候補・ミシェルが、一切、欲も悪意もない純粋な心で、欲にまみれて凍り付いた人たちの心を溶かしていくさまには、心が洗われた。
そして、主役のダー子。あらためて、ダー子って、本当に右に出る者のいない生粋の詐欺師だなって思った。
それは、ターゲットを騙すためのビジュアルの七変化や、言語やいろんな技術の習得といったハード面のことを指すのではない。
隠している本音、あきらめてしまった夢への想いや、譲れないこだわりなど、人の心の一番大事な部分に気が付いて、それを詐欺という手口で上手に動かす力を持っている。
いつもターゲットが、騙されて良かったんじゃないかというところに着地するから、詐欺師なのに、見ている人はダー子たちのことを誰も悪いやつらとは思わない。
見る度に、どんどん、ダー子たちが好きになる。それもすべて、古沢さんの計算なんだろうなぁ。まったく、もう、抜け目がなさ過ぎて、震える。
ダー子が、劇中で最低3回は言っていた「私たちは、何にだってなれる。強く思えば、それが真実になる」というようなセリフ。
これは、詐欺のことを指しているのだけれど、別の意味にも汲み取れて、勝手に励まされたような気持ちになって、これを聞く度に胸が熱くなったことも、付け加えておこう。
<全員適役のキャスティングの妙>
それにしたって、今回も、キャスティングが素晴らしかったなぁ。特に、フウ一族の3きょうだいを演じた、ビビアン・スー、古川雄大、白濱亜嵐。
この3人の完ぺきなセレブリティぶりが、王道かつスケールの大きな劇場版の世界観に見事にマッチしていた。このナイスなキャスティングが、確実に作品のクオリティを押し上げていたと思う。
そして、フウ一族に仕えている執事役の柴田恭兵の、前に出過ぎないけれども意志のある、執事らしい存在感をにじませるめちゃくちゃ渋い演技は、圧巻だった。
また、キーパーソンのミシェル・フウ役に大抜擢された、関水渚。広瀬すず&広瀬アリス姉妹を足して2で割ったようなビジュアルで、最初「この役、広瀬すずで良かったのでは?」と思ってしまった。
しかし、物語が進むにつれて、彼女にしかない素朴さと演技演技していないナチュラルさが、徐々に、しっくり馴染んできて、彼女で良かったなと思わせてくれた。
ほかにも、劇場版ならではの豪華ゲストが盛りだくさん。「え、こんな人も?」と思うような人が、ちょい役で登場して、驚きと笑いを与えてくれる。さすが、芸能界の中でも「出演したい」という人が多いという人気作品だな。
インパクトを添えるためだけの出演かと思ったデヴィ夫人が、後から意外と大事な役どころだったということがわかったりして、それも良かったな。
ここまでの作品ともなると、次の作品を生み出す度に「ファンの期待を裏切らないだろうか」と、ものすごいプレッシャーがあると思う。
それでもちゃんと期待以上のものを届けてくれる、製作陣の才能と頑張りに感謝。
次回の劇場版作品も、期待していいのかな。続編をまた撮ってほしいなぁ。そのときはぜひ、メールの文面とか電話の向こうにいる設定とかでいいから、恋愛詐欺師のジェシーも、また登場させてほしい。どうぞ、お願いします!!!
エンドロール後の、ダー子の最後のセリフは、まるでジェシーに言っているみたいだったよ。切ないけれど、彼の死が、次回作の妨げになるようなことだけはありませんように。