今さら感が半端ないけれど、ずっと見たくて見られてなくて。たまたまとある映画館での再上映情報を仕入れたので、劇場で見ることができた。
ネタバレが嫌で、何も調べず、この映画の情報にはなるべく触れずに過ごしていた。だから、タイトルとポスターの印象から、金持ちの家の半地下でひっそりと貧乏な家族が暮らす物語だと思っていた。
でも、全然違った。そんなに大胆にパラサイトしちゃうんだ!という、良い意味での裏切りに、まずはやられた。
脚本が惚れ惚れするくらいよく練られていて、「これぞエンターテインメント!」と感心しきり。そりゃあ、アカデミー賞も受賞するわっていう。
貧しい地域で、狭く汚い半地下に暮らす父親、母親、息子と娘の4人家族。全員が無職でギリギリの生活を送っていたが、ある日息子が、とある金持ちの家に家庭教師として入り込んでから、状況は一変する。
続いて、娘が別の家庭教師として、父親は運転手、母親は家政婦として、次々に同じ家に雇われるのだ。でも、4人が家族であることは、秘密。他人の振りをして、貧乏な家族が金持ちの家族に寄生するのである。
金持ち家族を巧みに騙し、見事に職を手に入れていく序盤は、コメディの要素も盛り込まれていて、クスクスと笑いがこぼれた。
中盤は、詐欺一家の「ちょっとやり過ぎじゃない?」と思うくらいギリギリの、攻めた行動にハラハラしっぱなし。
そして終盤、いきなりサスペンスへ方向転換。雲行きがどんどんあやしくなってきたあたりから、もうずっと手に汗握っていた。序盤のあのほっこりした雰囲気はどこに行ったの?と思いながら。
狂気に満ちた殺戮シーン、血祭りの様相は、スクリーンを直視できなくて、思わず何度も目をつぶってしまった。
一度嘘を付いたら、嘘に嘘を重ねることでしか取り繕うことはできないし、それにもやがて限界が訪れる。限界まで追い詰められたとき、人は自分でも思いもしないような行動をとるのだというのを、まざまざと見せつけられた。
また、貧乏人が金持ちに抱くねっとりとした嫉妬と、軽蔑と、くすぶるプライドと。知り合わなければ隠れていたはずの感情が、思いもよらず爆発する瞬間も、恐ろしかった。
終盤のキーパーソンと言える、元家政婦とその夫の狂った価値観や存在感も、本当に怖い。夢に出てくるんじゃないかと思うくらいに…。
脚本がおもしろいのはもちろんだが、この映画が成功したのは、絶妙なキャスティングにあるのではないかと思った。
小太りで薄汚い中年の父親、小太りどころか丸々としたおばさんの母親、決してイケメンとは言えない普通の息子、超美人とは言えないが馬子にも衣裳でイメージが変わる娘。
この4人の貧乏家族に対して、しゅっとした男前の主人、ぱきっとした顔立ちの美人な妻、かわいい娘も息子の金持ち家族。
衣裳やヘアメイクのおかげもあると思うが、ビジュアルによって圧倒的な貧富の格差、住む世界が違う人たちなのだということをわかりやすく見せつけている。どこまで計算されていたのかわからないけど、それが大正解だったと思う。
終盤、金持ち家族のガーデンパーティに招かれた貧乏家族の長男が、「(ほかの金持ちゲストは)みんな急に招かれたのに、どうしてこんなにも自然に、クールに振る舞えるんだろう。僕はこの場所に似合うかな?」と話すシーンがある。
一生懸命に取り繕って金持ちの輪に入ろうとしても、意図しないところで、育ちの違いが浮き彫りになる。その貧乏人の悲しみ、やるせなさが伝わってきて、とても切なかった。
ものすごく集中して、2時間ちょっとがあっという間に過ぎていった。見た直後、どっと疲れがわいたけど、「ひゃー、おもしろかったー!」と誰かと感想を話し合いたくなるような、興奮を覚える傑作だった。見られて良かった。
そういえば、日本ではなかなかこういう秀逸なエンターテインメント作品ってお目にかかれないけど、どうしてなんだろう。
じっくり丁寧に、繊細な心の機微を映すような作品は日本らしくて好きだけれど、そうじゃない、世界的な評価を受けるような攻めに攻めた映画を、誰か撮ってくれないものだろうか。
ドラマの世界も韓国作品に席巻されているし、ぼやぼやしてると、映画の世界も食われちゃうぞー!