(監督・脚本:藤井道人/主演:清原果耶/2020年)
5回泣いた。
こんなにステキな映画なのに、上映劇場が少ないし、東京ではTOHOシネマズみたいなメジャーな劇場でやらないのはどうしてなんだろうなぁ。
・不思議なおばあさん「星ばあ」との奇妙な友情
・憧れのお兄さんへ小さな恋
・本音をぶつけ合って強くなる家族の絆
この3本の大きな柱が、いい塩梅で絡み合って、14歳の幼気な少女の身に降りかかり、彼女を強く成長させる。そんな物語。
アラフォーの私も感動したけれど、小学生~高校生くらいの多感な年齢の子どもにこそ、見てほしい作品だなぁと思った。
14歳のつばめは、父と継母との3人暮らし。産みの母は、2歳のときにつばめを置いて家を出て行ってしまった。
つばめは、継母に本当の娘のようにかわいがられて育ってきたが、もうすぐ父と継母の両方の血がつながった妹が生まれてくることに対して、複雑な想いを抱えている。
別れてから一度も会っていない産みの母のことも気になるが、父はつばめに母のことを話してはくれない。
誰にも話せない心の内と葛藤する日々を送るつばめは、ある日、書道教室の屋上で、やたらと派手で、口が達者なおばあさん「星ばあ」に出会う。
そしていつしか、星ばあにだけ、つばめは本当の気持ちを語り始めるのだった…。
星ばあ役は、桃井かおり。これもはや、演技じゃないよね?素だよね?と思ってしまうほどのナチュラルさ。この作品の世界観のベースを作り上げていたのは、確実に桃井かおりだったように思う。
その確固たる世界観のベースの上で、つばめ役の清原果耶が、瑞々しく、生き生きと、主演として輝いていたという感じ。
この2人のマッチングなしには、この作品は、きっと成り立たなかっただろう。
星ばあが空を飛んでいるように見えたり、出したラブレターが戻ってきたり、その場に誰もいないのに糸電話が置かれていたり。
そういうファンタジーっぽい要素が多々あって、一歩間違えると、共感しがたいゾーンに入りがちだけれど、さすが、藤井道人監督。
見ている側が「?」の闇に取り残されることがない、リアルとファンタジーとのさじ加減が、絶妙だった。
星ばあがファンタジー側の肝だとしたら、リアル側の肝は、つばめが憧れる大学生の亨(とおる)と、つばめの家族。
伊藤健太郎が、そこらへんにいそうでいない、憧れられるに値する魅力を持った亨を自然体に演じていて、とてもステキだった。
また、つばめの父・吉岡秀隆と、継母・坂井真紀の、つばめを心から愛する優しくて強い親の姿も、本当に素晴らしかった。
私が劇中5回泣いたうち3回は、父と母とのシーン。母と血がつながった子が生まれてきてしまうことへの、不安、嫉妬、戸惑い…。
つばめの複雑な想いが爆発したとき、それに相対する父と母の仕草や言葉に、大きな愛を感じて、泣けて仕方がなかった。
泣きシーンの残り2つは、ラストシーンと、清原果耶の清らかな歌声が流れたエンドロール。
冒頭、「2005年」という表記が出てきて、なんで15年前の話なんだろうと不思議に思ったのだが、ラストシーンが「2020年」で、あぁなるほど…と。
大人になったつばめは、一切出てこないのだけれど、つばめの成長がひと目でわかる仕掛けになっていて、全てが回収された思いがした。
このラストシーンには、つばめの書道の先生役の山中崇さんしか登場しないのだが、山中さんの演技が素晴らしくて、素晴らしくて。
ひと言もセリフがないのに、横顔や後ろ姿だけで感情が伝わってくるし、見ている側の気持ちと、画面の中にいる先生の気持ちがシンクロするようだった。
つばめがどんなふうにあれから15年間を生きたのか。それを、ラストの短いシーンだけで想像させる、憎い作り方。すごいなぁと感心せざるを得なかった。
原作を読んでいないからわからないけれど、星ばあがつばめを「クラゲ」を見に連れていくとか、つばめの産みの母が「水墨画」の作家だとか、亨が趣味で弾いている楽器が「バンジョー」だとか、さまざま散りばめられているモチーフに、ちょっと引っ掛かりのあるものが選ばれていることも、藤井監督の計算なのだろうか。
これが「ペンギン」だったり、「水彩画」だったり、「ギター」だったりしたら、生まれなかった空気感があるような気がして。
清原果耶が歌う主題歌を、Coccoが作っているっていうのもまた、なんか、すごくいい。
作品を彩るものの一つ一つを、ものすごくこだわって選び抜いている感じがするし、そのセンスがとっても良いし。
「新聞記者」を見て、藤井監督の次回作が気になって本作を見て、まったく違う世界観が繰り広げられていることに驚いたけれど、次の作品がヤクザものだと知り、さらに驚いている。
いったいどういう感性で生きたら、そんなふり幅で仕事ができるのだろうか。ヤクザものに興味はないが、この人の撮るものに興味があるので、次も見てみようと思う。