ヤクザと家族 The Family

(監督・脚本:藤井道人/主演:綾野剛/2021年)

 

 

なぜ、2021年の今、あえてのヤクザ映画なのか。渋すぎやしないか?正直、全然興味がわかないぞ。

とは言え、日本アカデミー賞の最優秀賞作品賞を受賞した「新聞記者」を手掛けた藤井道人監督の作品だから、見ようと思った。

 

上映時間は、2時間ちょっとと少し長め。でも、3部構成になっていたおかげで飽きずに見ることができた。

 

第1部は、主人公の山本賢治(綾野剛)がヤクザの世界に足を踏み入れるまでの10代〜20代前半を。

第2部は、賢治がヤクザとして男を上げた20代中盤を。

第3部は、殺人の罪で14年の懲役を終えて出所した30代後半が描かれている。

 

一人の男の20年もの月日を追った、大作なのである。

 

覚醒剤によって父が命を落とし、天涯孤独になった賢治は、髪を金髪に染め、スクーターを乱暴に走らせては、仲間とつるんで荒れた暮らしをする日々だ。

 

ある日、行きつけの焼肉店でヤクザの組長である柴崎博(舘ひろし)と出会う。そして、他の組が柴崎を襲撃してきたところを、賢治がたまたま助けたことで、目をかけられる。

「ヤクザにはならねぇ」と拒む賢治だったが、孤独だった彼を「ケン坊」と呼び、かわいがってくれる柴崎の人柄に惹かれ、賢治は柴崎と親子の契りを交わす。

 

その後、賢治はめきめきと頭角を現し、柴崎組の中で確固たる地位を確立。一方、敵対する「侠葉会」との抗争は激化、そして、賢治はキャバクラに勤める学生・由香(尾野真知子)との出会う。

 

第1部と2部は、賢治が10代〜20代の設定。正直、アラフォーの綾野剛が演じているのを見て、無理があるなぁとモヤモヤしてしまった。「老けすぎだろ、この25歳」とかいちいち突っ込まずにはいられなくて、ストーリーに集中しづらかったというのが本音。由香役も同じくアラフォーの尾野真知子。彼女が20代前半を演じているのも「おいおい、さすがに無理があるよ」…と思わざるを得なかった。

 

でも、その違和感を拭い去るくらいの圧倒的な存在感でグッと心を惹きつけられたのは、舘ひろしだ。正直、彼に対しては古いトレンディ俳優というイメージしかなかったのだが、そんな風にしか思っていなかった自分を責めた。

いくつもの修羅場をくぐってきたであろうヤクザの組長という役柄を、奥深く、そして繊細に演じていた。

 

とにかく、この映画は脇を固めるキャストが惚れ惚れするほど、素晴らしかった。舘ひろしの他にもう1人、存在感を放っていたのは、賢治の兄貴分を演じた北村有起哉。

 

北村さん、去年見た映画「浅田家!」の演技も秀逸だったし、ドラマ「美食探偵 明智五郎」「書けないッ?!」でもすごくいい味出してたし。先日公開されたばかりの映画「すばらしき世界」では、同じヤクザを扱った作品なのに全然違う役どころで、そちらも素晴らしかった。そういや、「新聞記者」にも出ていたなぁ。あの役もめちゃくちゃ良かったなぁ。

 

話が飛んだが、侠葉会との抗争が激化するなか、10代の頃からつるんでいた仲間が殺されてしまったことで、自分のなかで何かが壊れた賢治は、侠葉会の主要人物の殺害を計画する。そして、殺人の罪で服役を余儀なくされ、14年という月日が流れる。

 

第3部は、賢治が刑期を終えて釈放されるところから始まる。娑婆にいなかった14年の間に、暴力団対策法が制定され、ヤクザが幅を利かせた時代は終焉を迎えていた。大所帯だった柴崎組も、わずか5人の組員が残るばかり。ヤクザを取り巻く世界はすっかり変わり、ヤクザとして生きていくことに希望を見出せなくなっていた。そのことに賢治は失望する。

 

また、賢治は、服役中ずっと忘れられなかった由香の居場所を突き止める。彼女は14歳になる娘とともに、ささやかながら幸せな日々を送っていた。そう、その娘は、賢治の子どもである。そのことを知り、賢治はヤクザの世界から足を洗って2人と共に住むことを決める。

 

やっと人間らしい、温もりのある生活を手に入れたと思ったのはつかの間、賢治がヤクザであったこと、殺人の罪で服役していたことがバレ、由香は職場を追われ、娘は学校でイジメを受ける。

「あんたさえ目の前に現れなければ!」と由香に涙ながらに言われた賢治は、2人の前から姿を消す。

 

結局、絶望した賢治は、因縁の相手を殺しに行く。そしてそれを果たした後、昔からの仲間に逆恨みされ、刺されて命を落とすのだ。

(この賢治を刺した仲間を演じたのは、市原隼人なのだけれど、彼もものすごく良かった。舘ひろし、北村有起哉、市原隼人の3人が、この作品を骨太なものにしていたと言えるだろう)

 

ヤクザとして生きた者は、普通の幸せをつかむことはできない。誰かを殺したり、誰かに殺されたりすることでしか、決着がつけられない。この全く希望のない終わり方に、私はあまり納得がいかなかった。

ミッドナイトスワンを見たときと同じような、「あぁ、結局、人と同じような道を歩めなかった者は、不幸だけを背負って死んでいくんだね…」という、なんとも言えぬ虚しさが、心にこびりついた。

 

(ミッドナイトスワンのレビューはこちら

 

物語は、死んだヤクザを父に持つ若者同士が出会い、父親について語ろうとするシーンで幕を閉じるのだが、さすがにこれだけでは、希望を見出すための材料が少な過ぎる。

 

いや、待てよ。でもあれだな、この作品の配給会社が手掛けた「新聞記者」も「MOTHER」も、まったく希望のない終わり方だったな…。うーん。それが定番なのかな。あえて、希望を見せないという。それが現実なんだよっていう。

でも、先の2作品は許せても、この作品はなんか、納得いかなかった。上手く言えないけれど。

 

とはいえ、キャストの演技が皆素晴らしく、ヤクザという形骸化してしまった過去の産物を通して家族の絆を描くというコンセプトがすごく良かった。ものすごく濃い、20年もの月日を描いた大作。見て損はない。

 

それにしたって、藤井道人監督の振り幅の広さよ。昨年見た「宇宙でいちばんあかるい屋根」とは全く違う世界観だった。一つだけ共通しているとしたら、血の繋がらない家族の絆を問うていたという点だろうか。彼の次回作がものすごく楽しみだ。